コラム・エッセイ
雪山賛歌②
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修この冬に鳥取県の大山で米子登攀倶楽部のメンバーの一員として冬山パトロールに参加し、冬山らしからぬ微風快晴の山頂に汗をかいて立ったことを書いた。しょせん山登りなど体力勝負はいうまでもなく下界では想像できないような事象にどう対処できるかを試す行為だと思っているが、年々怪しくなってきた体力もだが、状況によっては猛烈な風雪やホワイトアウトで「命」を意識するような経験をした過去もあり、それなりの心構えというか覚悟をもって臨んだ。
ところが山頂で雪の上に座って弁当が食べられるほど穏やかだったこともあり少々の肩透かしだった。とはいえ、我々の本命はお巡りさんと一緒に冬山の安全パトロールや啓発であり不測の事態発生時には知らぬ顔はできない。
ちょうど五合目の上部付近を登っている時にヘリコプターの音が近づいてきた。きっとヘリコプターでもパトロールしているのだろう。メジャーな山域ではよくあることで大して気にもしていなかったが、実は滑落事故の救助のためだった。
このとき呑気に先頭付近を歩いていて無線でやりとりしているお巡りさんとは距離があり、事故を知ったのはすでに2名のお巡りさんと遭対協の一員でもあるメンバーのN氏が救助に向かってからだ。ちょっと恥ずかしい思いをした。
大山は四季を通して転滑落事故が多いが、まさか自分達のすぐ近くで起きているとは…下山後に顛末を聞いたが六合目付近からアイゼンを着けたままで尻セード(雪の斜面をお尻をつけて滑り降りること)して、下降中にバランスを崩しての事故とのこと。何でも大腿骨骨折とかで重傷らしい。穏やかな天気に浮かれて興じたのだろうが、思うにアイゼンの爪が支点となって上下反転し頭から滑り落ちコントロール不能になったと想像できる。
斜面を滑る時はアイゼンを外すのが鉄則だ。誤って転倒滑落した時もアイゼンの爪が雪面に引っかからないようにするのが基本だ。
翌週も米子登攀倶楽部がパトロール当番だったが、一変して冬の大山らしい天気となり大いに荒れたことを自宅で聞いた。樹林帯を抜けると遮るものがないためまともに強風に叩かれ、ちょっと油断すると凍傷や低体温で最悪の事態につながるのが冬山の怖さだ。
この日は七合目付近の強風下、低体温で動けなくなった登山者に遭遇し、荒天の中パトロールに同行のお巡りさんと救助活動に当ったとの報告があった。無事にヘリで病院に搬送されて大事には至らなかったとのことだが、あらためて冬山はあなどれないと気が引き締まる。
つい先日まで寒さに震えていたが気が付けば桜も散りもう春本番だ。早速連休のパトロールの案内が来て何とか都合をつけて参加しようとスケジュールを調整中だ。
いつも大山ではN氏の小屋を勝手に定宿にしているが、彼から「煙い小屋でも黄金の御殿 早く行こうよ谷間の小屋に〜♪」とお誘いの連絡が来た。

参加したパトロールの日は真冬とは思えないような穏やかな日だった

低体温で動けなくなった登山者を同行のお巡りさんと救助活動

無事にヘリで病院に搬送された。あらためて冬山はあなどれないと気が引き締まる
