2025年09月16日(火)

コラム・エッセイ

「断腸の涙を流す」

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 先代(父)が鬼籍に入り早や16年が経つ。お寺の勘定では十七回忌の法事を執り行う年となり、縁者との調整作業中だ。

 昨今はパンデミック下の混乱もあり、法事はともかく葬式さえも省略していきなり火葬場行きというのもあるという。さらにはお墓も不要だという声もあるようだが、いくら世の中が変わり世間の価値観が変わったとはいえ相槌は打っても「はい そうしましょう」にはならない。確かに諸々の手間もかかるし費用も嵩んで面倒といえば面倒だ。こうした儀礼的なものを省いたところでバチがあたって高確率で目がつぶれるという話も聞かないし、法令違反にもならないので結局は個人の自由判断に任されたイベントということだろうか。

 とはいえ出来損ないの放蕩者ではあるが、それなりに墓や仏壇のお守は当然の責務と務めてきた。むかし今より10倍以上も人の数が多かったころ、それに比例して葬式も多かった。霊柩車もないころで家の前を火葬場に向かう棺桶を担いだ大人たちの長い葬列を何度も目にした。我が家はもとより縁者やご近所の葬式だ法事だと度々大人たちが行き来していたのを思い出す。それらが原体験として今に至るのだろうか、そうした節目の私的イベントは外せないでいる。

 それと我が家は明治以前に建てられた超古民家だ。

 固定資産税の課税明細の築年が慶応となっている。嘘か本当か定かではないが子供のころに年寄りから築三百何十年だと聞かされていた。それが本当なら400年以上経つことになる。冷静に考えてみれば国宝級でもあるまいし眉唾物だとしか思えない。まあ、私的感情は別として歴史的建造物として永久保存に値するまでもないのは確かだが、ここはご先祖様を立てることにする。

 ただ老朽化が著しい。法事をするために無理やり外した襖が元に戻らない。ジャッキで鴨居を持ち上げて入れようとするが逆に敷居が下がってしまう。畳を持ち上げて床下を覗いてみると束も大引きもスカスカの末期的な状況だ。ただ昔の材木が必要以上に大きいからかろうじて支えていた。

 法事の前に仏間だけは急遽補修をしたが、部屋の四隅の高さレベルがそれぞれ数センチも違う有様で何を基準にすればよいかと迷う。さらに隣家に面する土壁がごっそりと剥がれ落ちて危うく迷惑をかけるところだった。今まで補修に補修を続けてきたがもうぼちぼち限界を迎えたと判断。もちろん話題の古民家再生という選択肢もあるが費用対効果と次世代以降が近い将来果たして帰ってきて住み続けるのかも…。

 解体に向けての残存物の整理作業も佳境に入った。子供の頃からの思い出の品も多い。昭和、大正、明治と年号が確認できる物やそれ以前と思われる物もある。ご先祖様から見張られている気もするが、断腸の涙を流しながら粛々と進めるしかない。でもお墓の守や法事は縁者を集めてやるから勘弁ね。

 この記事が紙面に載る日が解体着手の日だ。

隣家に面する土壁がごっそり剥がれ落ちた

これでもかというほど食器やオケ、ザルの類が出てくる

大正時代の教科書も出てきた

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