コラム・エッセイ
祖母〜傾山縦走記⑥《油断大敵》
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修今回歩く縦走ルートは祖母山や障子岳など1,700メートルを超える山々を源流とする奥岳川を挟むように馬蹄形に連なる尾根を歩くことになる。この地形、位置関係を上手く表現できないが、要するにアルファベットの大文字のUの字型になっているのだ。このUの字の真ん中の谷底に奥岳川が流れているが、最奥の尾平(おびら)地区の標高が約500メートルだから1,200メートル以上の切り立った顕著な尾根をぐるっと回りこむように歩くことになる。言い換えればこのはっきりした尾根筋さえ踏み外さない限り迷うことはない…と思っていた。
まずは東から西方向に延びる障子岩尾根に上畑という集落から取りつく。昨夜車中でちびりちびりとやりながら地形図を眺めたが、登山口の標高は約400メートルで1,175メートル地点付近までは急傾斜を一気に700メートル以上登り続けなければならない。いつものことだが縦走初日は背中の荷物は食料と水で最大重量となり、体も慣れていないので稜線上に上がるまではとにかく辛い。ただひたすらに足元を見つめ、何の因果でこんな難行苦行をしているのかと自問自答し、半ば後悔さえしながら登る。ただただ耐えて耐えて登れば確実にゴールが近づくはずだった。
車道脇に親切にも「障子登山口」と書かれた小さな看板が立っていたのでチラッと横目で見ただけで何の迷いもなく登りだす。しばらくはコンクリートで舗装された道があるほどしっかりしていたが、いつのまにかカヤの茂る山道となり、そのうちに大きな岩の転がる谷となった。さらに進むとつる性のトゲが絡んで顔や手足を容赦なく突き刺す。それでも足元は踏み跡らしきものもあり、進行方向も刈り開けられたような気配があるので進む。
いくら祖母山のマイナールートでもちょっとこれは酷い。15分ばかり歩いただろうか、とうとう踏み跡も消え先に進めなくなった。どうやらどこかでルートを外したようだ。こんな時ははっきりした道があるところまで戻るのが鉄則だ。気を取り直して道があるところまで引き返す。きっと正規ルートを見落としたに違いない。
今度は間違えないぞと周囲の様子を慎重に確認しながらリトライする。しかしまたもやさっきと同じ所まで来て身動きが取れなくなってしまった。何だか力が抜けきた。がっくりと肩を落として引き返す。
もう小一時間もさまよっていることになる。肩に食い込む荷物を放り投げて休憩だ。どうもこのルートは違うようだ。少し焦りも出て来た。ようやく地形図とコンパスを出して周囲の確認をするとやっぱり進む方角が違う。取りつく尾根を外している。どうやら造林の作業道に入っていたようだ。こうなったら車道まで戻ってやり直しだ。地形図を出すのが遅かった。重荷に足元ばかり見ていてどこかで分岐を見落としたに違いない。まさに「油断大敵」だ。

「しばらくはコンクリートで舗装された道があるほどしっかりしていた」

「いつのまにかカヤの茂る山道となり、そのうちに大きな岩の転がる谷となる」
