コラム・エッセイ
祖母〜傾山縦走記⑤《山を想う至福の時》
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修30分ばかりの仮眠のつもりだった。隣の車が勢いよくドアを閉めたのだろうか、ドスンという大きな音で目が覚めて時計をみてびっくりだ。もう21時を過ぎているではないか、2時間以上も寝ていたことになる。まだ登山口まで2時間近くかかる。今回は夜も更けぬ時間に着いてのんびり前夜祭の予定だったが計画変更だ。本当は入山予定の上畑集落で車中泊のつもりだったが、途中から狭くカーブの連続する山道となり、人家もまばらで携帯電話も圏外となる深夜の山中で脱輪でもしたら大ごとだ。適当な所を探して今夜の寝場所にしよう。
大分道を大分米良(めら)インターで下りて国道10号線、57号線とつないで南下し、道中のコンビニに寄り道をして冷えた缶ビールを仕入れた。「道の駅原尻の滝」の駐車場に立ち寄るとキャンピングカーなど数台の車中泊の先客もいることだし本日はここまでにしよう。そのキャンピングカーもカーテン越しに灯りがもれ車中の人はまだ起きてはいるようだが、それでも大きな音を立てないようにそーっと運転席のドアを閉めて後部座席に移る。
我が愛車は20年以上も乗る満身創痍のボロ車だが、後の座席を折りたためば畳一枚分の空間があらわれ、ペラペラのマットでも敷いてしまえば立派なキャンピングカーに変身する。明日の準備はほどほどにして早速乾杯だ。
地図を片手に明日から歩くまだ見ぬ障子岩尾根の様子をちびりちびりとやりながらあれこれと想像する。この誰に気兼ねすることもなく山を想うひと時こそ至福だ。着の身着のままで、かたわらにザックや登山靴が転がっているほぼテントの中と同じ条件の臨戦態勢が良い。ホテルや旅館の部屋ではこうはいかない。いろいろと雑念、邪念がよぎって集中できない。
のんびりと朝食を済ませて入山予定の上畑集落には朝8時前に到着。予報では晴れだったが高曇りだ。稜線は雲に隠れているが雨は降らないだろう。
荷物の最終チェックをする。山中2泊の予定だが予備にもう1泊分の食料を詰めて残りは置いていこう。水は祖母山の山頂直下で採れるがたどり着けないと厳しくなるので4リットルは必須だ。基本は避難小屋泊だが万が一の備えとしてテントをどうするか迷ったが雨さえ降らなければツエルト(簡易テント)でも快適だ。着替えの類もTシャツ一枚と予備のソックスだけにした。北アルプス仕様でダウンのジャケットを入れていたがここは九州だ。カッパで何とかなる。地形図はコース周辺をA4にプリントアウトしたものをバックアップもいれて2部。広域には国土地理院発行のものを確認した。コンパスもバックアップをザックに入れた。燃料は110gのガス缶1つ。これで3日やっていく自信はある。
きょうは標高1,700メートルに建つ避難小屋まで1,300メートル高度を上げる。アップダウンもあるので登りの累積標高は2,000メートルを超える。さあ気合を入れて出発だ。

「後の座席をたたんでしまえば立派なキャンピングカーだ」

「きょうはここから1300メートル高度を上げることになる。さあ気合を入れて出発だ!」