2022年01月24日(月)

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文化 : 光市のニュース

「Shari」監督・吉開菜央さん 「赤いやつ」は私(あなた) 「自分を見つめなおしてもらえれば」

  • 映画監督の吉開菜央さん

  • 植物の写真を撮る吉開さん

 話している声が印象的な人だった。

 「両親がいる光市は自然の美しいところ、ゆっくりと深呼吸できる場所。私が暮らしている東京は、そりゃ電力もたくさん使用するけど、こっちはすぐそこの近くまで車で移動しちゃう。砂浜もあんなにごみが多かったかしら、それとも私が見ていなかっただけかしら」。

 吉開菜央さん(34)は、山口県光市出身の映画作家、振付家、ダンサー。吉開さんの初長編監督映画「Shari」が1月14日(金)まで萩市東田町の萩ツインシネマで上映されている。同シネマでの舞台あいさつを前に話を聞いた。

 2006年に光高を卒業。ダンスが好きになったきっかけはB’zの稲葉さん。地元のダンスセンターや公民館でクラシックバレエ、ジャズダンス、ヒップホップを習った。進学は当時、実技の時間が多い日本女子体育大学を選び、舞踊学を学んだ。

 同大大学院の在学中にダンスの研究のかたわら映像を創るうちに自分の作品を専門家に見てもらいたい、批評してもらいたいと強く思い、東京芸術大学大学院映像研究科メディア映像専攻に進んだ。

 「Shari」は写真家の石川直樹さんから北海道の斜里(しゃり)で映像を撮らないかと言われたことがきっかけで制作した。石川さんは北海道の知床半島で地元の人と写真展や写真制作をする「写真ゼロ番地知床」のプロジェクトをしている。

 映画作品は2020年冬の知床半島の斜里町を舞台に現実と吉開さんが描いた紙芝居を織り交ぜて紡いだ物語。同年1月に撮影がスタートしたものの、この年は記録的な雪が少ない年。思い描いていた「赤いやつ」が真っ白な銀世界にいるイメージと違った風景を目の当たりにした。

 雪原からは枯草が見えるほど少ない雪、くじらが鳴くような音でぶつかりあう流氷。斜里町に暮らす人たちが口々に言う「今年は異常だ」という声が吉開さんにとって無関係ではなく「私ごと」と強く確信した。吉開さんは「この現実を撮りなさいと言われた気がした」と話す。

 映画作品では吉開さんが扮した「赤いやつ」が斜里町に現れ、斜里を全身で体感して大地を踏みしめるように暴れる(踊る)。吉開さんは「斜里に振り付けられ、斜里と一緒に踊っている」と話す。

 「赤いやつ」は内臓や肉のかたまり、熱のかたまり。撮影を始めていくうちに「熱の神」というイメージが加わった。「赤いやつ」は「自分が目覚めたせいで異変が起きているのでは」と考える。「赤いやつ」を使って映画を撮ろうとしたから異変が起きているのではないかという思いとリンクした。

 斜里の人たちは吉開さんに旅人むけの、少しよそゆきの言葉の中にかなりの本音を混ぜてインタビューに答えた。

 映像は、どんなマグカップでコーヒーを飲んでいるのか、どういうふうにお湯を沸かすのか、どんな本を持っていて、壁に何が張ってあるかなど生活の細部を撮影した。映像とインタビューの声、そこに監督、赤いやつ、ナレーションの吉開さんの声を行き来して、さまざまな人の視点を取り入れながらも、集まった断片は斜里の風景を見て聞いた吉開さんの世界を物語った。

 取材しながら「赤いやつ」は自分の中にもいるようだ」と吉開さんに伝えた。

 吉開さんは「そう、あなたがご自身の言葉で新聞というメディアを使って書こうとしている時点であなたにも“赤いやつ”はいるかもしれない。情報量が多い時代に自分の言葉と意図で切り取らなければならない。それが私は映画だった。“Shari”を見て自分を見つめなおしてもらえれば」と話す。

 取材撮影後、吉開さんと港で仰向けの状態になるヨガのポーズのシャバーサナ(しかばね)のポーズをした。吉開さんの声、近くのクレーン車の音、空にはトンビが旋回していた。自分の「赤いやつ」が静かに踊り始めた気がした。

 「Shari」はオランダのロッテルダム映画祭の短中編部門に選ばれ、海外でも注目されている。

(山下仁美)

映画「Shari」のポスター