コラム・エッセイ
情報と運
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子春爛漫。桜も花開き、新年度の開始を目前に老いも若きも新たに始まるそれぞれの歩みの第一歩への思いを馳せる時でもある。入学、卒業、就職など、これまでの日常を一変させる区切りの時期になっているなら当然だが、日々変哲のない日常を繰り返しているような流れの中でも、新年度の始まりは気持ちを新たにさせるものがある。
とりわけ我が家にとって今年はその思いが強い。二人揃って傘寿を迎えたこの春。一つの傘で肩寄せ合って相合い傘で仲良くもいいけれど、時には襲ってくるかもしれない土砂降りの雨にも二つの傘ならもっと安心して歩んでいけるだろうと思う。そしてもう一つ。
入札で決まる委託事業の契約更新期に当たる新年度。入札のためスタッフと力を合わせて資料を準備し、固唾をのんで知らせを待った審査発表の日。無事落札となり、これで新年度も皆の仕事が確保できたと喜びの声を交わした。
この事業が続く限り毎度のように繰り返される儀式だが、そのたびに感じる緊張と心改まる思いは変わることはなく、卒業と就職を繰り返しながら齢を重ねていっているように思える。更にもう一つ。
三番目に挙げたのではつれ合い殿からはこちらが一番と異議が出るかもしれないが、昨年の誕生日の脳梗塞発症から丁度1年経過。運良く直後に発見され緊急入院手術となったものの、状況は必ずしも楽観できず、医師からは再発・重症化の恐れも十分にあり、安心は出来ないと宣告された中でのリハビリ生活。
幸い後遺症もなく、歩行困難を起こした腰痛も次第に収まり、安堵のうちにも、まずは1年、とにかく無事に傘寿を迎えることを、当面の目標にと過ごしてきた。
その日を実際に迎えられたことは、つれ合い殿にとって、傘寿よりも落札決定よりも心新たに新年度を迎える感慨になったことだろう。その思いを私も同様に感じながら続く言葉にしばし耳を傾けた。
「何かをするには体力・気力・能力が必要で、能力なんて誰も大した差はないから、十分な体力で気力を支え能力を引き出せば誰でもかなりなことは出来るものだ」と言い「だが、いい結果になるためには更に大切なものがありそうだ。それは情報と運」「?」「やろうとすることに関する適切な情報を得ることと、いい運(縁)に恵まれること」
そして歩けなくなるほど苦しんだ腰痛が克服された経過を語った。
「最初電気治療を試したときは、こんなことで効果があるのかと10回位で後はやる気がしなかった」「しかし友人が同じ治療を120回やって効果があったと聞いてから、では、121回はやってみようと思えた。すぐ近くの病院に治療器があって、毎日通うことが出来たので、苦労なく続けられた」「友人からの情報と、近くに治療器があったという運がなかったら続けられず、こんなに早く快復は出来なかっただろう」とうれしそうに語る。
情報と運か。目標を明確にし強い意志で臨んでも、いい結果に至るにはプラスアルファも要るのだろう。納得の一席。
(カナダ友好協会代表)
