2026年08月04日(火)

コラム・エッセイ

どさくさ紛れ

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 スーパーでの買い物に忙しいお母さんのカートに、普段なら「健康に良くないから、ダメ!」と買ってはもらえないお菓子の袋をそっと投げ込んでおく。レジを通ってしまえばこれは我が家のもの。我が家のものは私のもので「これ、お母さんが買ってくれたよね」と、心置きなく味わえる。

 決定権者が冷静な判断の出来ない状態に乗じて、まともに考えれば認められないような判断ミスを誘って、欲しいものを手に入れるどさくさ紛れの収奪戦は、庶民の家庭の微笑ましい小事件ばかりではない。

 国家の最高意志決定機関の場でもしばしば起こっている。時間不足で審議も尽くせないという状況の中で、誰かがポロリとつぶやいたことがいつの間にか「立法府の総意」になっているのも腑に落ちない思いだが、レジを通れば私のものの思いは子どもでも議員様でも変わらないのだろう。

 どさくさ紛れと言えばもう一つ。こちらは私たちの生活にかなり深く関わってくるから簡単には見逃せない思いがするのが、個人情報の取扱いに関わる法いじり。個人情報保護の重要さは何かにつけて話題になるから、誰にも十分すぎるくらい意識されてきている。これはどこの誰のことだと分かる内容を、あるいは、どこの誰にはこんな秘密があるということを、本人が許さないのに勝手に他人に伝えることは厳しく禁じられている。

 個人情報の保護は、個人の権利が保障されている国では当然のことになっている。「あの人は元気そうにしているが、実はこんな病気にかかっていて、あと何年生きられるか分からない。遺伝子にも異常があるのよ。昔はこんな活動をしていて、逮捕されたこともあるのよ」こんなことを許しもなく広めて欲しくないことは当たり前。決して許されないと決められていた。ところがそれを許すとされた。

 今流行の生成AI。これの助けがなければ企業活動も研究も、国の政治もスムーズに進まないと考えられ、生成AIの性能向上のためにはあらゆる情報を利用出来なければ不十分だからと、AI技術開発のために本人の許しなく個人情報を使ってもいいよとしてしまった。

 もちろん法律には生成AI開発のためとは書いてなく、さりげなく「統計等」と書かれている。お役人得意の「等」の字がここでも暗躍している。これが1字でとんでもない働きをする。「等」には何でも当てはまるのだ。何を当てはめるかは使う者の思うまま。ほとんどの国民が庶民が知らないままに、庶民の領域に手を突っ込んでかき回すようなことが出来るようにされた。

 まさにどさくさ紛れの、レジを通ってしまえば私のもの状態だ。冷静に考えれば買い物にしないものを、考えさせる間を与えずどさくさ紛れにカートに投げ込みレジ通しをする手法をこの国の権力者がこれ以上用いないように、1票以外に力のないか弱い庶民はせめて冷静に見張っていきたいものだ。

(カナダ友好協会代表)

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