コラム・エッセイ
No.3 ウンカ②
中須里山通信 形岡 瑛私が小学生の頃はパラチオンという恐ろしい薬が使われていた。これを散布した田んぼの畦には三角の赤い旗が立てられた。危ないからその田んぼの側に行ってはいけない、ときびしく云われた。実際、これを散布した農家でひどい中毒症状に留まらず、亡くなる人も出たと聞いている。
このような急性中毒を起こす薬剤は今は使われていない。使用基準が定められており、農水省の使用許可が出されている。だが、農薬散布の時、薬が皮膚に付かないようにとか呼吸の際、吸収しないようにとかいっても実際上はむつかしい。中須でも「ありゃあ農薬をぶちまきよったけえや」という話が聞こえてくる。パーキンソン病などの神経系統の障害や肝臓がんなどである。
問題は農家にはとどまらない。多くの農薬が作物に吸収され、それを摂取した害虫が死ぬという仕組みだ。その作物を食べる人の体に入ってくる。ヘリコプター、ドローンによる空中散布では風によって広い範囲に飛散して農業従事者ではない人にも影響を与えている。農水省の基準では「安全」というお墨付きはあるものの、近年のがん多発や神経障害による難病の多発、子供の発達障害の増大は、総合的な疫学調査の必要性を示している。
稲作を始めて今年でようやく10年になろうとしている。このような問題を抱える農業の現状を変革し、賑やかな農村を取り戻したいと思ってのことだった。
10年の間に周りの風景がすっかり変わってしまった。燕(ツバメ)の姿が少なくなった。初夏にやってきて青々とした田んぼの上を飛ぶ、秋口に雛が大きくなって電線にズラリとならんでとまり、いっせいに南へ帰って行く、その光景がなくなった。イネが実った田んぼの上で、夕日にキラキラと黄金のように羽根を光らせて飛び交う赤とんぼも見ることが少なくなった。
不気味な「沈黙」が感じられるのだ。このことと昨年のウンカの大発生とが無縁とは思えない。
2020年7月25日、自宅倉庫
