コラム・エッセイ
No.4 ウンカ④
中須里山通信 形岡 瑛たかだか10年近く前だが、除草剤も殺虫剤も使わない私の田んぼはもっと賑やかだった。なかなか草取りができないので雑草に囲まれてイネが育っている。草の上にもイネにもカマキリや糸トンボがわんさといた。朝田んぼ一面にはクモが巣を張り巡らし朝日が反射して輝いている。株元の水にはオタマジャクシ、アメンボが動き回り、クモが巣をかけたり這い回っている。カエルがいる。少し高いところにはトンボが飛び交う。燕(つばめ)が飛び交う。
それが最近では、農薬を使わない私の田んぼでさえ、糸トンボとか探さないと見つからない。
これらの生き物はウンカやニカメイガ、サンカメイガ、カメムシなどを餌として生きている天敵だ。殺虫剤は天敵も殺してしまうし、害虫がいなくなると餌がなくなるから天敵も生きていけなくなる。近年、ウンカだけに効く薬剤も作られるようになったが、それで死んだウンカを食べたクモが死ぬという事例も報告されている。
中国から飛んでくるウンカにとって日本の田んぼは敵無しである。飛んでくる数が多かったというだけではないはずだ。
農薬を散布することによって逆に害虫の大発生をもたらす“誘発大発生〟というのが、この度のウンカ被害だと私は考えている。
いま、地球上の昆虫の数が減り、絶滅した昆虫も少なくないという。昆虫が減ればそれを餌とする燕などの鳥も減る。すると害虫が増えて作物の害が増えていく。
地球の上で生きている生き物はすべて物質循環と食物連鎖で一つの世界をつくっている。農業という物がそのバランスを大きく崩すことによって危機を招いていることを知らなければならない。
では、農薬を使わなければ事が済むかというとそうはいかない。農薬を減らす前に肥料、とりわけ窒素肥料を減らさなければならない。ウンカであれカメムシであれ、またイモチの病原菌であれ、それらのものは窒素過剰で作物に残留するアンモニアが大好きなのである。
参考文献=桐谷圭司『害虫と戦う 防除から管理へ』(1972年NHKブックス)、『「ただの虫」を無視しない農業』(築地書館2004年)、『生態系と農薬』(岩波書店1973年)、伊藤嘉昭『生態学との農学遍歴』、寒川一成『緑の革命を脅かしたイネウンカ』(2010年自費出版)
交尾する糸トンボのつがい(2013年8月19日中須南久保)
