2026年06月01日(月)

コラム・エッセイ

No.16 伝説の用水路――大溝③ “大溝ばばぁ”とは?

中須里山通信 形岡 瑛

 大溝の取水口(図のA)は標高390メートル、末流の地点(図のB)は360メートル。延長5,000メートルとすると勾配は0.006、およそ200分の1である。取水口近く(写真)で水路の底面を水準器で測るとおよそ200分の1という結果だった。

 図のように入り組んだ山襞の急斜面に水路を通すのに伝説のように夜間たいまつなどの灯で高低を測ったというのは現実には不可能ではないか。図を見ても分かると思うが、直線で見通せるのはせいぜい5、6メートルくらいである。水路の開削に当たって測量に夜間の灯火を用いたという話は玉川上水(東京)の開削でも伝わっているが、これは、明治以降のヨーロッパからの技術になじんだ近代人の思い込みではないだろうか。

 例えば、いわゆる太閤検地ではそれなりに精密な測量用具が用いられており、戦国時代、各大名が盛んに河川の付け替えや水攻めなどで水路の開削をしている。また、稲作をおこなっている百姓でも田に水を引いているのだから、水路の適切な勾配の取り方について無知であったはずはない。

 図のBの地点に水を引くのに適切な勾配を維持するにはどの地点から水を取ればいいのか?

 現代のような地図はできていないので、末流の地点から小刻み測定して一定の勾配を測っては「野帳」に記載し水路を定めていかなければならない。その時、検地で使われていた小方儀とか細見竹、分度規などや現代の標尺のようなものを用いれば精密な測量による水路の確定は可能であったはずだ。でないと、水を引くのに、ちょうどぴったりの所に取水口を定めるのは不可能であろう。 とすれば、“大溝ばばぁ”と後に伝えられる人物は、そのような技術と道具をもっているものを動員できる人物だということになる。大名に属する今で云えば技術吏員とか、あるいは、木地師など山で移動しながら生きている人々の存在があったのはないか。と、私は想像をたくましくするのである。

大溝の概念図(図A)

取水堰より50メートルの大溝

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