コラム・エッセイ
霜月(二)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)この秋は寒暖差が大きくて紅葉が美しかったです。紅葉狩りを楽しんだ人も多かったことでしょう。齢を重ねるほどに晩秋への思いは深まります。
京都の南禅寺から永観堂へかけての紅葉は鮮やかです。朝の早い時間や夜のライトアップに合わせて散策するとゆっくり楽しめます。わが家は臨済宗の南禅寺派なので南禅寺にはよく参拝します。
奈良の秋を彩るのが「正倉院展」。毎年10月から11月にかけて17日間、奈良公園にある奈良国立博物館はにぎわいます。正倉院宝物はかつて東大寺の倉であった正倉院に伝来した品々でその数は9千件に上ります。これらの中から毎年60件前後が公開される展覧会は今年で74回を数えます。
今はコロナ禍で事前予約の日時指定入場制。10日午後2時半から2時間、じっくりと鑑賞しました。聖武天皇の遺愛品リスト「国家珍宝帳」に記載された鏡、漆背金銀平脱八角鏡(しっぱいきんぎんへいだつのはっかくきょう)、当時の染織技法で作られた﨟纈屏風(ろうけちのびょうぶ)、東大寺の大仏開眼会で演じられた仮面劇「伎楽(ぎがく)」の面をはじめ、貴族が腰帯につけたとされる魚形の飾りや小刀など装飾品も数多く出展。ひとつ一つの品が千三百年の時を超えて語りかけてきます。
洗練された京都に比べて奈良は土の匂いがする素朴さが魅力で、学生時代から和辻哲郎の「古寺巡礼」や亀井勝一郎の「大和古寺風物誌」、犬養孝の「万葉の旅」などを手に足繁く通いました。奈良を愛した志賀直哉は大正14年(1925)から昭和13年(1938)まで13年間この地に住みました。「今の奈良は昔の一部分に過ぎないが、名画の残欠が美しいやうに美しい」と印象を書き残しています。
私が奈良を初めて訪れたのは高校2年の修学旅行。その後、興味を強く持ったのは万葉集が好きだった大阪の叔母の影響です。学生時代は阪急、近鉄を乗り継いで西ノ京の唐招提寺や薬師寺、斑鳩(いかるが)の法隆寺や法輪寺、法起寺(ほっきじ)、神と人との出会う道といわれる天理から桜井までの山辺(やまのべ)の道、清少納言らも詣でた長谷寺(はせでら)など隅々まで足を延ばしました。
新潟生まれの会津八一は大正11年、奈良美術研究会を創立、早稲田の学生を連れて古美術研究に没頭する傍ら、歌集「南京新唱(なんきょうしんしょう)」で美しい情景を詠みました。南京とは奈良のことです。若草山ふもとの春日野にて。
かすがの に おしてる つき の ほがらかに
あき の ゆふべ と なり に ける かも
登大路(のぼりおおじ)の定宿「日吉館」の夜を私も懐かしみます。
