2026年07月17日(金)

コラム・エッセイ

師走(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 月日が流れて早や12月。周南冬のツリーまつりの点灯式が1日にあり、100万球の明かりが師走の町を彩ります。暦もあと一枚を残すだけとなりました。生き方を問い続けるコロナ禍も3年目の冬。感慨深い年の瀬を迎えています。

 7日は本格的な雪が降り始める「大雪」。この1週間、冷え込んできました。8日は「針供養」。若い人には馴染みがない言葉かもしれません。針と糸は暮らしに欠かせませんでした。針の小さな穴に糸を通して縫物をしていました。肘や膝など擦り切れると端切れを充てて繕いました。戦後まもなく生まれた私たちの世代には懐かしい記憶でしょう。

 「上手く糸が通らない」とこぼす母に替わって糸を通したこともありました。男の子も小学校の家庭科の時間には布巾や雑巾を縫いました。運針と言って布に針を通す感覚を覚えさせられたものです。針供養は関西で12月8日、関東では2月8日に行われます。針祭り、針納めとも呼び、俳句では春の季題とされています。

 針供養女の齢くるぶしに
          石川桂郎

 私たちが高校を卒業する頃は和裁や洋裁を学ぶ専門学校が幾つもあり、そのことを生業とする人たちも多くいました。針供養は豆腐や蒟蒻などのやわらかいものに刺して針を祭るとともに裁縫の上達をも祈りました。手縫いをしていた頃のゆかしい行事も洋裁などの職場や学校でしか見られなくなりました。

 手仕事を見つめ直した民藝運動の創始者、柳宗悦。東京・駒場の日本民藝館も大きな仕事でした。「そもそも手が機械と異る点は、それがいつも直接に心と繋がれていることであります。機械には心がありません。これが手仕事に不思議な働きを起させる所以だと思います。手はただ動くのではなく、いつも奥に心が控えていて、これがものを創らせたり、働きに悦びを与えたり、また道徳を守らせたりするのであります。そうしてこれこそは品物に美しい性質を与える原因であると思われます」。自著『民藝四十年』(岩波文庫)の「手仕事の国」(1946年)の中で述べています。

 着物を解いて反物の状態に戻して洗う「洗い張り」をし、黄ばんだ障子を真っ白い紙に張り替えて年越しをしていました。手を使うことで暮らしが成り立っていた日々を思い起こします。「上手」「下手」「手堅い」「お手並み」「手腕がある」。手から生まれた言葉の何と多いことでしょう。かつての歳末風景が物語る暮らしです。

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