コラム・エッセイ

　徳山湾に沈む夕日が美しいです。太陽の落ちる速度が目に見えます。「釣瓶落とし」とはこのことです。茜色の空が刻々と変化していきます。

　秋の暮を詠んだ名歌として『新古今集』の「三夕の歌」が有名です。

　さびしさは　その色としもなかりけり　槙立つ山の秋の夕暮　　　 寂蓮

　心なき　身にもあはれは知られけり　鴫たつ沢の秋の夕暮　　 　　西行

　見わたせば　花も紅葉もなかりけり　浦の苫屋の秋の夕暮　　　 　定家

　懐かしい「三夕の歌」。高校の古文で習いました。どの歌が好きですか、と問われれば藤原定家の歌と答えます。美しい春の花も秋の紅葉もない、海辺の苫葺きの小屋が夕暮の中にあるだけ、と詠んだ一首。他の二首とともに寂寥感が漂います。秋の暮の美はもののあわれに通じるので歌人の心を動かしました。『枕草子』や『源氏物語』の世界にもつながります。定家は『新古今集』『小倉百人一首』撰者で、平安末期から鎌倉前期に活躍しました。

　秋は夜長。燈火親しむ季節です。ひんやりと澄んだ空気のためか、日が落ちて家路を急ぐ折、ぽつりぽつりと点る家々の明かりに心が温まります。秋の夜の静けさは物を考え、書を読むのに最適です。

　窓それぞれ人あり燈火親しめり　 　大橋越央子

　27日から「読書週間」が始まりました。わが国の文化の向上と社会の進展に寄与することを目的として昭和34年（1959）の「読書週間」を契機に出版界と読書界の総意で「読書推進運動協議会」が結成されました。秋の「読書週間」をはじめ、春の「こどもの読書週間」、9月の「敬老の日読書のすすめ」などを実施しています。

　月に一冊も本を読まない人が6割超に上ることが、文化庁が9月17日に公表した2023年度の「国語に関する世論調査」で判明。5年前の47.3％から62.6％へと増えました。スマートフォンやSNSの利用に押されて読書離れが加速しています。街の書店も急減。地域に書店がない「無書店自治体」は全体の4分の1に上ります。その現状に驚きます。

　小学生の頃に親しんだ野口英世や宮沢賢治らの伝記物語、中学生、高校生時代に読んだ夏目漱石、芥川龍之介、太宰治らの小説、古くからの詩歌や物語、日記、随筆。読書は知らない世界を教えてくれました。想像力を養い、思考力を身につける上で欠かせません。