コラム・エッセイ
再々水無月(一)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)山々が深い緑に包まれます。里ではゆすらうめ、梅が実ります。水辺ではふんわりと蛍が舞う季節です。早や6月。週末ごとに蛍まつりでにぎわいます。周南市では7日に和田、14日に長穂と大道理、21日に中須、須金、鹿野で蛍の夕べが催されます。浴衣姿で蛍狩りを楽しむのも一興です。
大蛍ゆらりゆらりと通りけり 一茶
ゆすらうめには思い出があります。小指の先ほどの楕円形の実はほんのりと赤みがさして美しいです。あの甘酸っぱい味が好きな人にはたまりません。中国原産のバラ科の落葉低木で、江戸初期にわが国に渡来し、庭木として広まりました。子どもの頃、遊び疲れて庭のゆすらうめを取っては口に入れていました。今でもゆすらうめにはそんな記憶が重なります。
田舎の子の小さき口やゆすらうめ 中村草田男
今年の梅はいかがでしょう。昨年が不作だっただけに期待されます。暦の上での入梅の頃から急に育って実を大きくします。熟して黄色くなる前の青梅を収穫して梅干しを作るほか、焼酎に漬けて梅酒にも。各家庭ではそれぞれの梅干しや梅酒を常備してふだんから食しておられることでしょう。「梅は三毒を断つ」「一日一粒で医者いらず」などのことわざがあるように食あたりや腹痛に効果があってわが家も食卓に欠かせません。クエン酸が豊富で疲労をやわらげる働きもあります。今は亡き母が作った梅酒には母の愛を感じてほろりとします。
6月の時候の挨拶は人さまざま。「雨に濡れる紫陽花が美しいです」「水辺では蛍が飛び交う季節になりました」「鮎漁が解禁。端正な鮎の姿を愛でて香りを楽しみます」。水の季節です。なぜ水無月と言うのでしょう。旧暦では梅雨明け後にあたるため「水の無い月」の「水無月」と呼んだという説もあります。
遠石八幡宮から「夏越の大祓神事」の案内が届きました。日本神話に由来した大祓は全国の神社の年中行事として6月と12月の年2回行われています。遠石八幡宮では6月1日から本殿前に「茅の輪」を設置、参拝の際に形代という紙製の人形に罪や穢れを託して茅の輪をくぐり、無病息災を祈る人たちが連日足を運んでいます。大祓式は30日午後4時から。無事に過ごせた半年に感謝し、残り半年の安穏を祈る古式床しき行事です。日本人はこのようにしていのちを繋いできたのです。
