2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

又 文月(二)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 ソーダ水の中を貨物船がとおる

 小さなアワも恋のように消えていった

 ユーミンこと松任谷由実の「海を見ていた午後」の一節。この季節になるとラジオから時折流れてきてヒットした1974年当時を思い起こします。新鮮な歌詞が洗練されたメロディーに乗せられて胸に響きました。

 「山手のドルフィンは静かなレストラン/晴れた午後には遠く三浦岬も見える」。このような歌詞に続いて冒頭の一節が歌われます。横浜市中区の坂の上にあるレストランの情景が印象的で、そこを訪ねて追体験するファンが絶えません。「ユーミンの聖地」とまで言われます。

 今年でデビューして53年。「返事はいらない」でデビューした1972年、宮史郎とぴんからトリオの「女のみち」や小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」がヒット、フォーク界からは吉田拓郎の「結婚しようよ」が人気を集めました。そこに登場したのがクラシックと洋楽の影響を受けたユーミン。斬新なコード進行は四畳半フォークにも飽き足らない若者の心を揺さぶりました。

 翌年の「ひこうき雲」から「海を見ていた午後」「中央フリーウェイ」、76年に松任谷正隆と結婚して荒井由実から松任谷由実を名乗るようになって作風が徐々に変化。私小説的体験を踏み出して架空のストーリーを構築して世界が広がりました。80年代の「恋人がサンタクロース」「夕涼み」、90年代の「天国のドア」「春よ、来い」。

 激動の時代を見つめて歌い続けるユーミン。人々の揺れる心情に寄り添って今も魅了し続けます。

 ソーダ水には私も思い出があります。戦後に生まれた私は高度経済成長とともに子どもから大人へ。小学生の時代は1950年代から60年代。海と川、野山が遊び場でした。今のように旅行をするゆとりもなく、親は朝から晩まで働いていました。年に1回、徳山の松下百貨店に連れて行ってもらうのが最大の楽しみでした。6階の大食堂。お子様ランチやオムライスにワクワク。親も貧しい中、この日ばかりは奮発。食後にはクリームソーダまで。緑色のソーダ水に丸いアイスクリームが浮かび、惜しみながら口に運びました。

 ユーミンのソーダ水は恋人の出会いと別れのほろ苦い味でしょうか。私が初めて体験したソーダ水は家族のほのぼのとした光景の中の優しい味でした。

 一生の楽しきころのソーダ水  富安 風生

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