コラム・エッセイ
又々 長月(一)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)秋風が吹き始めました。いよいよ9月。長月です。米どころの徳佐や徳地、鹿野辺りでは稲の刈り取りが始まりました。須金の観光農園は梨、葡萄の最盛期。週末はにぎわっています。店頭にも梨の豊水、二十世紀、葡萄の巨峰、シャインマスカットが並びます。味覚の秋到来。光市束荷(つかり)の里で収穫した新米をいただきました。粘りがあって柔らかく、ほんのりと甘みを感じます。
今年はお盆が明けても残暑が厳しいです。日中は真夏日が続いて「暑いですね」「外は出歩けません」との会話がよく聞かれました。それでも季節はゆっくりと移ろいます。8月23日の「処暑」を過ぎた頃から朝晩は幾分しのぎやすくなりました。
窓の下から「コロコロコロ」「リーンリーン」「チッチリチリ」と蟋蟀(こおろぎ)や鈴虫、松虫など虫の音が聴こえてきます。
母と寝る一夜(ひとよ)ゆたかに虫の声 栗生 純夫
老いた母を看取りながら過ごす一夜の虫の音。自分を育ててくれた母。若い頃の母との思い出も去来します。「ゆたかに」は母の限りない愛を感じさせます。最期の時を迎えた母への思慕もあふれてきます。添い寝して母の髪をやさしくなでたのでしょうか。虫の音さえ寄り添っているように思えます。作者は明治37年(1904)に長野県須坂生まれ。一茶研究や新資料発掘に尽力した俳人。臼田亜浪に師事、戦後は『科野(しなの)』創刊・主宰。昭和36年に57年の生涯を閉じました。
秋の花が咲き始めました。山の裾野などの広々とした一面に野草が咲いて「花野」という言葉がふさわしいです。中世の和歌や連歌の頃から秋の言葉として使われていて俳諧でも愛好されてきました。
秋の野に咲きたる花を指折(およびお)り かき数ふれば七種(ななくさ)の花
萩の花尾花(おばな)葛花(くずはな)なでしこの花 をみなへしまた藤袴(ふじばかま)朝顏の花
有名な秋の七草の花。天平2年(730)、71歳の筑前国守、山上憶良(やまのうえのおくら)が身体をかがめて子どもたちと向きあい、声に出して詠んだ歌といわれます。『万葉集』(巻八)所収。朝顔は諸説ありますが今では桔梗が定説とされます。私の母もよく口遊(くちずさ)んでいました。花の名を数えあげただけの歌なのに心が満たされて温かくなります。
秋は空気が澄んでいて月が美しく、中秋の名月も楽しみです。7日は「白露」。草の葉は夜露を結びます。
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