2026年06月25日(木)

コラム・エッセイ

睡眠薬を飲まなかったー

晩期高齢者のたわごと 中村光子(周南市有楽町)

 9月23日の秋分の日、弟夫婦と実家の墓参りをした。弟夫婦は昨年まで関西に住んでいたが、老いて故郷が恋しくなったのだろう、人手に渡っていた実家を買い戻し、生まれ故郷の富田大神に帰ってきた。

 引っ越しの手伝いに行き驚いた。ふたり暮らしなのに、部屋数が2階も入れて、なんと8部屋か9部屋もある。それに風呂場、台所等の水廻りや倉庫等々、私にはどこから、何から手をつけて良いのか見当もつかない。出るのは溜息ばかりだ。

 私はひとり暮らしだ。しかし、我が家の遊び場には、お茶飲み友達が来るのをはじめ、下手な俳句会や源氏物語を読む会等をやっているので頻繁には手伝いに行けない……のである。

 墓参りを済ませ、おいしい昼食を共にした後、弟夫婦は歩いて帰ると言うので、ならば、私も歩いて帰ることにした。

 若かった頃、友人と産業道路をちんたら走っていた。余談だが友人のH子さんは駿足ランナーで60歳代の頃、年齢別5千メートルの記録で日本1位になった。まだその記録は誰にも破られていない。

 話があっちこっちに飛んで申し訳ない。えーと、歩いて帰った話だった。富田の川崎川まで歩けば、その先は私の散歩コースのひとつだ。昨今、物忘れがひどくなった。50年前のことは覚えているのに、昨晩の夕食に何を食べたかが思い出せない……のである。

 川崎川に着いたら、右手に昔の石橋があるではないか!。欄干のない石橋を渡ると、私の散歩コースのひとつに出る。自然に背筋が伸びた。足にも力がはいった。川沿いに歩きながら左に曲がると公園につき当たる。公園を真っ直ぐに突き抜け、狭い路地に入ると、右に折れたり左へ曲がったりと気の向くままだ。自在に歩けるのが良い。

 コースは、私の好きな“花小道〟がある。鉄道線路に沿ったその小道には、沢山の草花が植えてある。思うに、このあたりにお住いの人たちが手入れされているのであろう。花小道はひとりが通れる程の狭さだ。私は小さな花や花木に声をかけながら歩いている自分にびっくりすることが度々ある。

 やがて、我が家に到着。時計を見ると、1時間50分ばかり歩いていた。さわやかでいい気分だ。

 夏場の風呂は、カラスの行水である。だがこの日は、湯舟にぬるま湯をいっぱいに張り、手足を思いっきり伸ばし、前屈したり後屈したりと、ぬるま湯を楽しんだ。

 毎晩、10時過ぎに睡眠薬を飲むのだが、その夜は、それも忘れてぐっすり寝たようだ。目が醒めたら陽がのぼっていた。

絵・杉川 茂

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