2026年05月23日(土)

コラム・エッセイ

(8)芍薬

補 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」、美しい女性の容姿や立ち振る舞いを花にたとえた諺(ことわざ)であるが、最近では、いろいろな意見があることなどから、使われることが少なくなったといえる。

 しかし、古い時代の物語や伝説を読み返してみると、そのことわざが持っている魅力を感じることができる。それは、たとえ、そのことわざが使われていない場合であっても、それがふさわしいと感じることもある。

 その一つが、『平家物語』の「扇の的」に登場する一人の女性であろう。「扇の的」といえば、船上にかかげられた扇をおよそ70メートル離れた場所から見事に射落とした那須与一の話が有名すぎるほど有名である。

 女性は、その陰に隠れているかのようにも思えるが、赤い袴に柳の五衣を着て、紅地に金色の日輪が描かれた扇を船の前部にはさみ立て、陸に向かって手招きをする優美な姿は、まさにことわざがふさわしいと言える。

 その女性について『平家物語』には詳しいことが書かれていないが、『源平盛衰記』には玉虫御前の名前が書かれている。源平の合戦後には、熊本県横野村の父のもとに身を寄せ、尼となって玉虫寺を建てたとされる。

 また、多くの平家の落人が隠れ住んだとされる熊本県八代市の五家荘(ごかのしょう)には、鬼山と名前を変えた玉虫御前が源氏方の追っ手であった那須与一の子と結ばれて幸せに暮らしたという伝説が残されている。

 そして、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」のことわざは、美しい女性の容姿や立ち振る舞いを花にたとえたものではなく、元々は生薬(しょうやく)の使い方をたとえた別の意味があるとも言われる。

 気が立った人には芍薬(しゃくやく)、座ってばかりいる人には牡丹、歩きながらふらついている人には百合、それぞれにふさわしい生薬があると伝えている。いずれも、花ではなく根や皮、地下茎などを使用する。

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