2026年05月30日(土)

コラム・エッセイ

(9)下野水天宮

補 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 筑後川は、熊本・大分・福岡・佐賀の4県を流れる九州最大の河川である。筑紫平野を蛇行する川幅の広さと水量の豊かさを目の当たりにすると、常日ごろから狭い川の風景を見慣れた者にとっては、驚くほかはない。

 しかし、このような悠然と流れる静かな風景の一方で、関東地方を流れる利根川の坂東太郎や四国を流れる吉野川の四国三郎とともに、筑紫次郎の別名を持つ日本三大暴れ川の一つであることを見逃すことはできない。

 また、筑後川は、河童に関する言い伝えが多く残されている妖怪の住む川でもある。その河童の正体については、平家一党の亡霊が水神と化し河童に変じたという伝説があるように、平家伝説と深く結びついている。

 そのことを表すかのように、筑後川周辺には多くの平家伝説が残されている。その中に、『久留米市史』に書かれた「久留米の平家伝説」がある。それは、安徳天皇がこの地で密かに生き延びたとする言い伝えである。

 『平家物語』には、安徳天皇は二位の尼に抱かれて入水したと書かれているが、実際に入水したのは身代りであったとされている。難を逃れた安徳天皇は、諸説ある経路をたどった後に、下野(しもの)に落ち延びた。

 鳥栖市下野町にある下野水天宮(安徳天皇御潜幸伝説の地)の案内板には、「下野水天宮由来史によれば安徳帝は従者と共に下野にのがれ、この地で一生を終えられた」(二十五才・天然痘で死亡)と書かれている。

 その下野水天宮は、JR久留米駅からおよそ北に2.7キロメートル離れた場所にある。周辺の道路が狭く案内標識も見当たらなかったのは、この地が「御座所」であったからであろうか。たどり着くまでにかなりの時間を要した。

 途中、土が盛られたような台地の上に建立された下野老松宮に迷い込んだ。その台地が、安徳天皇の御陵ではないかとされていることを、後になって知った。現在も、周辺は神聖な場所であり続けているのであろう。

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