コラム・エッセイ
(26)カマキリ
補 周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
道を歩いている時に、一匹のカマキリに出会った。何をしているのか、どこに行こうとしているのかは分からないが、急ぐ素振りを見せることもなく道路の真ん中にとどまっていた。車が来れば敷かれるに違いない。
取りあえず道端に追いやろうとしたところ、それがいらないお節介だったらしく、まるでカマ(鎌)を持っているかのような前脚を高く上げて、今にも襲いかかろうとするようなファイティングポーズを取ってきた。
こちら側には、捕まえる気持ちも殺す悪意も持っていないが、カマキリからすれば警戒するのは当然であろう。こう着した状態をこのまま続けたところで問題が解決するはずがないので、少しだけ離れることにした。
しばらくすると、カマキリもそうした思いに気がついたのか、こちら側を警戒しながらも歩き始めた。その動きを見ていると、先ほどまで強力な武器の役割を果たしていた前脚がかなり邪魔になっているように見えた。
そこには、最大の強みであることが、最大の弱点になることが示されているのかもしれない。ともすれば、そうした実情から目をそらしたくなるのが、人間であろう。そこには、失いたくないといった自己保身がある。
カマキリの名前の由来については、改めて説明するまでもないかもしれない。まるでカマ(鎌)を持っているかのような前脚や今にもキリ(切り)かかろうとする姿を見れば、それが由来であることは明らかである。
しかし、カマキリのカマの部分は鎌と同じであるが、キリの部分はキリギリスを省略したものとする別の説がある。これは、現在はカマキリ目に属しているが、昔はキリギリスの仲間とされていたことが原因らしい。
この日に出会ったハラビロカマキリと思われるカマキリの色は、非常に珍しいと言われている茶色であった。見かけによらず、害虫を退治する益虫であることも相まって、少しの間、貴重な時間を過ごすことができた。
