2026年10月23日(金)

コラム・エッセイ

(7)スイセン(水仙)

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 スイセンの花が咲き始めた。暦の上では立春(2月4日)をとうに過ぎているが、まだ厳しい寒さが続くこの時期に花を咲かせるためには、凍りつく冬の寒さや吹きつける風雪に耐えながら準備をする必要があっただろう。

 「雪中花(せっちゅうか)」と呼ばれる別名には、こうした努力に対する畏敬の念が込められているような気がする。さらに、春の訪れを告げるように咲くスイセンの花に、励まされる人は決して少なくないはずである。

 地中海沿岸が原産とされるスイセンの英語名「ナルシッサス」は、ギリシャ神話に登場する青年「ナルキッソス」に由来するとされている。その逸話は、ナルシシスト(ナルシスト)の語源として余りにも有名であろう。

 しかし、山野などあらゆる場所で自生している現在のたくましいスイセンの姿からは、神話の中で語られる水面にうつる自分に恋した美青年である「ナルキッソス」を思い浮かべることは難しいと言えるかもしれない。

 それでも、「女神ネメシス」の罰によって、自分しか愛せないようになった「ナルキッソス」が水面にうつった自分にキスをして水死した場所に咲いたとされるスイセンの花姿に、思いを寄せることは可能であろう。

 そんなスイセンの花が、心地よい香りを辺りに漂わせている。この寒い時期に芳香によって呼び寄せることのできるチョウやハチなどの昆虫はいないはずである。受粉できなければ、当然、種ができないことになる。

 ところが、たとえ受粉ができなくても、球根植物であるスイセンは球根の分球で繁殖できる。植物の増え方には、種による有性生殖と球根の分球による無性生殖とがあるが、スイセンはどちらの繁殖も可能と言える。

 今だかつて一度もスイセンの種を見たことがないのは、観察不足だったのかもしれない。今後は、種ができると球根が弱ると言われているが、花が終わった後のスイセンを刈り取らずに種の行方にも注目してみたい。

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