2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(14)麦穂(ばくすい)

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 麦は踏まれて強くなる。今では、そんな言葉も余り聞かれなくなった。麦を作る人が少なくなったことが主な原因と思われるが、シゴキを連想するかのような言葉であることも少なからず影響しているのかもしれない。

 麦を踏むことがそのまま悪いイメージにつながっているとすれば、非常に残念であるが、もしも麦踏みをする本来の目的を知らない人が見れば、苗を傷つけているような間違った取り方をしても仕方がないと思える。

 しかし、麦を踏むことによって、得られる効果は大きいと言える。麦踏みがいつの時代から誰によって始められたかは不明であるが、その発想の素晴らしさには誰もが脱帽せざるを得ないほどの成果が込められている。

 秋に種まきして育った新芽には、冬の寒さを耐えなければならないという大きな試練が待ち構えている。そのまま放置した状態では、霜柱などによって凍る恐れがあるため、麦踏みをすることによって防止している。

 成長の途中にある葉や茎を踏みつけるなど常識ではとても考えられないが、麦の場合は特別である。踏むことによって、根を強くすることや伸びすぎを防ぐことなど他の穀物や野菜などでは期待できない効果がある。

 さらに驚くことに、麦を踏むことによって分けつという茎分かれが起きるとされている。この分けつが、収穫量を増やす役割を果たしているらしい。最近では、麦踏みの代わりにトラックターで踏圧が行われている。

 昨年の11月、家庭菜園の片隅に観賞用の大麦の種を初めて植えてみた。ほとんど手をかけることもなく放置状態であったが、それでも、風雪に負けることなく順調に育ったのであろう、気づけば長い穂をつけていた。

 生け花やドライフラワーにするまでもなく、その姿を間近で見るだけでもどこか懐かしさを感じることができた。麦踏みはできなかったが、子供の頃に寒い中を麦踏みをした思い出と重なるものがあるからであろう。

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