2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(17)盃状穴(はいじょうけつ)

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 周南市下上にある菊川市民センター富岡分館の入口横に、一基の石塔が建っている。自然石でつくられた塔には、何かの文字が刻まれている訳ではなく、いつ誰が何の目的でこの場所に石塔を置いたのかは不明である。

 塔の前にさい銭らしきものがあげてあることから、この石塔が何らかの信仰の対象になっていたことをうかがい知ることができる。さらに、塔を詳しく観察してみると、表面にいくつもの穴が開いていることが分かる。

 その穴は、盃(さかずき)の形に似ていることから盃状穴(はいじょうけつ)と名付けられたものと同じように見える。もし、同じものであるとすれば、盃状穴の歴史を知るうえで貴重な資料の一つと言えるであろう。

 しかし、西洋を起源とする盃状穴の文化が日本に伝わってきたのは縄文や弥生時代とされている。その後、それぞれの時代によって大きく変化してきたことなどから、本来の意味を探ることが非常に難しくなっている。

 一説によると、盃状穴は子孫繁栄や死者の蘇生を願ったものとされている。その願いの根底にあると思われるのが、生命の源である子宮に対する畏敬の念であろう。穴は、女性器と同じものと考えられたかもしれない。

 ところが、このような盃状穴そのものに対する信仰が、いつの時代からか願い事を念じながら自らが盃状穴を掘るといった行為に変わっていったと思われる。対象となるものも石塔や石段、石板などに広がっていった。

 富岡公園の石塔に見られる盃状穴も小石など固いものを押し当てたことによってできた穴と思われるが、どのようにして作られたのかは明らかではない。その穴の深さや大きさが、信仰と関係しているのであろうか。

 もしかすると、人目につかない深夜に、密かに願い事を念じながら小石を石塔に押し当てていたのかもしれない。あるいは、宗教のお勤めや集落の行事などで多くの人が参加して合同で営まれていたのかもしれない。

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