コラム・エッセイ
(20)ジャコウアゲハ
再々周南新百景 佐森芳夫(画家)玄関の前で、1頭の蝶が舞っていた。ところが、突然、地上に舞い降りてそのまま動かなくなった。死んだのかと思って近づいてみると、どうやら生きているらしかったが、いったい何をしているのであろうか。
休んでいるにしては、あまりにも無防備すぎる。踏まれる危険があるだけではなく、鳥に見つかれば食べられるに違いない。蝶の安全のためにもせめて草むらにいるべきではないかと思い、逃がすことにした。
その時、広げていた蝶の羽の模様が珍しいことに気がついた。今まで見たことがないような気もするが、蝶の模様をしっかりと見たことも、気にとめたこともなかったので、単に知らなかっただけかもしれない。
すぐにインターネットで調べてみたところ、蝶はジャコウアゲハのメスであることが分かった。特別、珍しい蝶ではないらしいが、インターネットには今まで知らなかった興味をそそることが多く書かれていた。
その中の一つに、幼虫のころから毒を含んだ葉を食べることで体内に毒が蓄積しているというのがあった。毒のあるウマノスズクサ(馬の鈴草)は、ジャコウアゲハ以外は食べることができないとされている。
その関係は、不思議としか言いようがない。ジャコウアゲハの命は、ウマノスズクサ類がなくなれば絶えることになるが、ウマノスズクサ類にとってジャコウアゲハが何の役割を果たしているかは不明である。
体内に毒を蓄積したジャコウアゲハは、鳥に捕食されることなくゆっくりと飛ぶことができる。そのことをどこでどう知ったのか、ガの仲間であるアゲハモドキは毒を持たないのに姿かたちを完全に真似ている。
ジャコウアゲハの名前の由来は、オスの蝶が放つジャコウと言われている。ぜひ、嗅いでみたい気もするが、蝶に触ると羽の表面についた鱗粉(りんぷん)が取れるので、蝶のためにはあきらめたほうがいいだろう。
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