2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(27)ハグロトンボ(羽黒蜻蛉)

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 今の時季になると、毎年のようにハグロトンボが庭にやってくる。庭に池があるわけでも水辺に近いわけでもないが、なぜかハグロトンボはやってくる。やってきたハグロトンボは、一日のほとんどを庭の中で過ごす。

 トンボといえば、軽快に空を飛び回るイメージが強いかもしれないが、ハグロトンボに関してはまったくそんなイメージが当てはまらない。どちらかと言えば、ヒラヒラと舞うチョウの飛び方に近いのかもしれない。

 ハグロトンボは4枚の黒い翅(はね)を2枚に折りたたんだ状態で留まっていることが多いが、時折、ゆっくり広げた翅をすばやく閉じることがある。その時の様子が、まるで手を合わせているかのように見えるらしい。

 そのことから、別名を神様トンボや極楽トンボ、仏トンボなどと呼ばれることがある。また、ちょうどお盆の時期にハグロトンボを見かけることが多いことから、ご先祖様の魂が乗って帰ってきたとされることもある。

 たしかに、ハグロトンボの姿にはそうした不思議な雰囲気が漂っているように見える。メスの全身を覆う黒い色には、妖艶で高貴な美しさが感じられる。それが、お歯黒に結びつき、トンボの名前になったのであろう。

 中村汀女(ていじょ)は、「おはぐろや旅人めきて憩(やす)らへば」と詠んでいる。「おはぐろ」とはハグロトンボのことである。その他にも、翅の色が黒いのでハグロとする説もあるが、どちらであってもかまわない。

 ハグロトンボについて調べてみると、川でヤゴから羽化した幼虫は、川から離れた林の中などで育ち、成虫となって再び川に帰って行くという。

 庭のハグロトンボも例外ではなく、やがて川に帰って行くのであろう。

 川からやって来て、やがて川に帰っていく。そんな初歩的なことも知らずにいたことが恥ずかしくなるが、それを知れば知るほど思いも強くなる。これからもハグロトンボが来てくれることを願わずには居られない。

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