2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(28)馬頭観音(ばとうかんのん)

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 今では、アクセルさえ踏み込めば、どんなに険しい道でも簡単に進むことができる。特殊な技能が必要なわけでも、過剰な経費を必要とするわけでもない。すべての人が、すべての恩恵を普通に受けることができる。

 そんなごく当たり前のことに、いちいち思いを巡らせることは無駄なことかもしれないが、その、ごく当たり前のことの有難さを感じさせてくれる場所が、周南市を走る県道3号新南陽津和野線の途中に残されている。

 県道3号の起点となる政所交差点から、大道理方面にしばらく進むと、川上ダム近くで間上(はざかみ)大橋を渡る。そして、一の瀬隧道を抜けて川上大橋を渡り高度を上げながら走ると、佐古入口のバス停を過ぎる。

 そのバス停を約900メートル進んだあたりの道路の右わきに、吹き抜けの石室(いしむろ)がある。石室には、おそらく県道3号が造られた時に旧道沿いから引き上げられたと思われる2躯(く)の馬頭観音が安置されている。

 いずれの馬頭観音も比較的新しいもので、向かって右側の馬頭観音が大正時代、左側のものが昭和2年となっている。右側のものは、何らかの理由で破損したのであろう分離した上下部分を修復した跡が残されている。

 馬頭観音が旧道にあった理由は、事故や病気などで命を落とした牛馬を供養する必要があったためと思われる。そのことは、富田川の渓流沿いに続いていた旧道がいかに難所であったかを物語るものでもあるだろう。

 現在では、ダムに水没していない佐古と瀬戸兼の間の旧道を辿ることは非常に難しい。そこで、明治36年に発行された地図で経路を確認してみると、県道3号とは反対側の川の右岸に徒歩道があったことが分かった。

 さらに、道が土崖(つちがけ)に囲まれた危険なものであることを読み取ることができた。おそらく、これらのことが、瀬戸兼の県道3号沿いの林の中に残されている江戸時代の馬頭観音にも関係しているのであろう。

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