2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(29)オルソセラス(直角貝)の化石

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 憧れであったオルソセラスの化石を手に入れることができた。長さ約12センチ、幅約4センチの美しく磨かれた海洋石灰岩の表面には、円すい形に伸びたオルソセラスの白くて長い胴体が、浮かび上がるように残されている。

 その胴体を細く刻んだように見えるものは、海の中での浮力を調整するためのもので、それぞれが仕切られた部屋になっていた。そして、これらの部屋は中央部分に見える連室細管によってつながっていたとされる。

 その細管を通じて、各部屋にある空気や液体などを増減することによって海中での浮き沈みなどの動きをコントロールしていたと思われる。そうした動きができる強みが、長い期間にわたり生存し続けた理由であろう。

 しかし、その強みを生み出していたものが、やがて弱点となる。それが化石に見られるような円すい形に伸びた胴体部分である。まっすぐであることは横からの圧力に弱く、生存競争に負けることになったのであろう。

 化石として残ることができるのは殻の部分だけである。軟体部分は化石になることができないため、イカに似ていたとされる本体部分は、本体が入っていたと思われる殻の先端部の空洞にその姿を想像する以外にない。

 地球上に初めて生命が誕生したのは、約38億年前の先カンブリア時代であったといわれている。一つの細胞からできていた原核生物が、数十億年の年月をかけて、人間のような多細胞生物に進化していくことになる。

 新人類が誕生したのがわずか20万年前であったことや、平均寿命がわずか80年である人間からしてみれば、オルソセラスの化石を手のひらに乗せることができるのは、夢のようなことであり、怖れ多いことでもある。

 かっては、希少と言われたオルソセラスの化石であるが、現在では、価格も手ごろになって、インターネットなどで簡単に手に入れることができるようになった。悠久の時を駆け巡る絶好のチャンスかも知れない。

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