2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(32)台風一過

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 「警報級の大雨や暴風になる恐れがある」との報道を聞いて、早急に台風10号対策をした。車の燃料を満タンにし、3日分程度の水や食料を備蓄した。懐中電灯を用意し、断水対策として浴槽に水をためておいた。

 さらに、強風に備えて雨戸を締め切り、雨戸のない窓ガラスには養生テープを貼って補強した。物干し台や自転車など屋外にあるものは、飛ばないように固定した。「警報級」の台風に対応できる準備をしたつもりでいた。

 しかし、台風はなかなかやってこなかった。8月29日の午前8時ごろ鹿児島県に上陸した後、時速10キロ程度の速さで進み、8月30日になって山口県に最接近した。雨はそれほど降らなかったが、ときおり強風が吹いた。

 外の様子をうかがっていると、強風にあおられた竹の枝が今にも折れそうな勢いで家の側に建っている電力柱に覆いかぶさっているのが見えた。電力柱に影響がないとしても、低圧配電線や引込線の状態が心配になる。

 常日頃は、ごく当たり前のこととして電気を使用しているため、電力柱や低圧配電線、引込線がどうなっているかについて知りたいと思ったこともなかったが、目の前に停電の危険が迫ると注目せざるを得なくなった。

 停電になれば、電灯もつかない暗い部屋でエアコンや扇風機もなく過ごすことになる。ご飯を炊くことも、湯を沸かしてラーメンを食べることも、風呂に入ることもできない。冷蔵庫は、やがて機能を失っていく。

 それでも、何とか台風が通り過ぎていったらしく、降り続いていた雨も上がり、西の空にはいつの間にか黄色い夕焼け雲が広がっていた。まだ、安心するには早すぎるかもしれないが、夕焼けに気持ちも楽になった。

 そして一夜が明けると「台風一過」の言葉のように、抜けるような青空に変わった。あれほど荒れ狂っていた竹の枝は、何事もなかったかのように元の位置に戻り、困難を乗り越えた電力柱にやさしく影を映していた。

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