2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(36)オニヤンマ

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 坂道を下っている時、突然目の前に何かが落ちてきた。あやうく踏みそうになった物をよく見ると、2匹のオニヤンマとスズメバチであった。1匹のオニヤンマはすぐに逃げていったが、残る2匹は絡み合っている。

 どうやら、スズメバチがオニヤンマの首根っこに嚙みついているらしかった。何とか逃れようとして、オニヤンマは翅(つばさ)を激しく動かしているが、スズメバチは離そうとしない。命をかけた激しい闘いが、続いている。

 さきに逃げ出した片方のオニヤンマは、必死で相手を助けようとしていたのであろうか。偶然通りがかっただけに過ぎないが、邪魔をしたような後ろめたさを感じたので、とりあえず、2匹を一度引き離すことにした。

 どちらに味方するつもりもないが、何とか引き離すことができた。スズメバチは、その結果に不満があったのであろう、周辺を飛び回り直ぐに去ろうとはしなかった。一方、オニヤンマは仰向けに倒れたままであった。

 ときおり、翅を激しく動かしてはいたが、飛ぶことができる状態ではなかった。おそらく助かることはできないと思われたが、そのまま道上に放って置くわけにはいかないので、とりあえず家に連れて帰ることにした。

 しかし、すぐにオニヤンマは動かなくなった。それでも、近くで見るオニヤンマは、迫力が違った。子供の頃には、昆虫採集で取ったこともあったが、最近では見ることも少なくなっていたので感慨もひとしおである。

 尾部に産卵弁らしきものが突き出ていることから、メスのオニヤンマと思われる。日本最大のトンボと言われるように、頭部から尾部までの長さが約11センチ、翅を含めた横幅は何と14センチに達するほどの大きさであった。

 まさに、最強の名にふさわしい風格といえる。ただ、偶然とはいえ、スズメバチに負ける場面に遭遇することになるとは思ってもみなかった。残念であったが、オニヤンマがあこがれの昆虫であることに変わりはない。

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