コラム・エッセイ
(38)彼岸花
再々周南新百景 佐森芳夫(画家)![]()
風景は、季節の移ろいとともに変わっていく。そのわずかな変化に気づかないことも多いが、時には川辺に咲いた彼岸花のように鮮やかな色で教えてくれるものもある。それが、季節の移ろいを知る良い機会になる。
彼岸花は、秋の彼岸の頃に咲くことが名前の由来になったとされていることから、彼岸花が咲くと彼岸が近づいていることを知ることができる。
ところが、今年は猛暑の影響であろうか、かなり遅れての開花となった。
やはり、彼岸花は彼岸に咲いてほしい。彼岸とは、春分の日と秋分の日を中日(ちゅうにち)として、前後3日を合わせた7日間のことである。そして、最初の日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸の明け」という。
今年の秋分の日(彼岸の中日)は9月22日で、19日が彼岸の入り、25日が彼岸の明けであった。家の近くの彼岸花は、ついに咲くことがなかったが、川べりでは今まで見たことがないほど多くの花が咲き乱れていた。
これらの異変が、来年以降も続くのかどうか心配になる。最近では、彼岸について知る人も少なくなったような気がするが、それでも彼岸は先祖を供養するために墓参りをするなど大切な期間であることに違いない。
仏教における彼岸という意味は、悟りの世界であり、あの世でもある。その向こう岸にある彼岸と、こちら岸にあるこの世の此岸(しがん)との間には、「三途の川(さんずのかわ)」が流れていると言われている。
目の前に広がる風景には、季節に遅れた彼岸花が咲き誇り、そばには川が流れている。今まさに、アオサギがその川に入ろうとしているところであった。その神秘的な風景は、どこかで見たことがあるような気がした。
そんな風景も、数日後には大きく変わっていく。彼岸花の赤い色は消え去り、枯れて垂れ下がった薄紫色の花弁が、彼岸花の別名でもある幽霊花を連想させるに違いない。それは、此岸での季節の移ろいの証でもある。
