2026年05月28日(木)

コラム・エッセイ

(39)ノゲイトウ

再々周南新百景 佐森芳夫(画家)

 子供の頃、家の周りには多くの「ケイトウ」の花が咲いていた。その花を、ごく当たり前のように「ケイトー」や「ケエトウ」と呼んでいた。それが間違いであったことに気づいたのは、かなり後になってからである。

 その間違いは、「ケイトー」や「ケエトウ」のどちらも「毛糸(けいと)」として呼んでいたことである。間違っていた理由は、「ケイトウ」の花の色や形が、毛糸で編んだ手袋やマフラーとよく似ていたからであろう。

 「ケイトウ」の名前が、ニワトリのトサカに似ていることからつけられたと知った時の衝撃はかなり大きかった。「ケイトウ」の花に責任があるわけではないが、以来花を見ることも近づくことも避けるようになった。

 間違えたほんとうの理由を知るために、山口県や周南市の方言などを調べてみたが、残念ながら、満足のいく結果を得ることはできなかった。ところが、最近になって、手がかりとなる資料を見つけることができた。

 その資料が、島根県浜田地方の方言をまとめた「浜田の方言集」である。島根県浜田市は、山口県と隣接する津和野町や吉賀町と同じ石見地方に属していたことから、古くから交流が盛んに行なわれていたようである。

 「浜田の方言集」には、なんと「けえとう」の方言に対する注釈として「鶏頭の花/ケートを編む」と書かれていた。アクセントは不明としても、鶏頭と毛糸が同じ言い方であることが見事に証明されたことになる。

 間違えたとしても、恥ずべきことではない。とにかく「浜田の方言集」に救われたような気がした。周南市山間部の方言と多くの共通点があることにも驚かされた。読めば読むほど溜飲が下がる、そんな方言集である。

 「ケエトウ」の問題は何とか解決したものの、「ケイトウ」の花は今も苦手な状態が続いている。ところが、今年になって、ようやくロウソクの炎に似た「ノゲイトウ」を畑の隅に植えて楽しめるようになってきた。

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