コラム・エッセイ
防災はまちづくり? 《バイアスを考えるⅣ 〜多数派同調バイアス》
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修何年か前に防災士の資格をとるために久々に勉強をした。資格取得のためには1コマ1時間の研修講座を12コマ受講することと、筆記試験のほかに課題に対するレポートを提出せよという。朝から晩までの連続研修は睡魔との闘いで、半分意識は飛んでいたことを白状しよう…。
それにしてもレポートにはまいった。課題の模範解答でもあればそれを丸写しにしようと企んだ。たいていの資格試験は本屋に行けば過去の問題集や受験対策用の参考書が並んでいるのだが、どこを探しても見つからない。しかたなく300ぺージもあるテキストを一通りめくることになった。でも、なかなか面白い内容もあり、結構楽しめた。
「災害と流言・風評」のページは、災害時に正常な判断力が失われている人間の心理状態がいかにもろいかを考えさせられた。俗に言う“デマ〟は被災地ではしばしば流れて不安と混乱の元になる。先の熊本地震ではネット上で「動物園のライオンが逃げ出してまちを歩いている」というデマが拡散し、世間を騒がせた。
出所はいたずらだが、受け取る側も確証もなく次第に歪(ゆが)めながら伝えてしまうことで混乱に拍車をかけたようだ。異常時には冷静さと信頼できる情報を入手する努力と伝達の工夫、そのための備えが必要だと感じる。震災の混乱時に、発信者は愉快犯だと笑って許すわけにはいかない。
さらに“パニック〟は映画のネタにもなるように、出口にわれ先にと人々が殺到して大混乱が起こるシーンを想像するが、実際に起こることはまれだという。パニックが発生するには四つの条件があり、一つでも欠けると起きにくいという。
①差し迫った危険が存在するという認識が人々の間にある時②脱出の可能性がある時③脱出口に制約があり、全員避難できそうにない時④正常なコミュニケーションが欠けている時。
異常事態では正しい情報を伝えない方が問題かもしれない。よく例えられるのが、韓国のフェリー沈没事故。パニックを恐れて船内放送で乗客にその場を動かないように指示したことが犠牲者を増やしたとも言われている。
お客の命を預かる船長が真っ先に逃げたというのは言語道断だが、船が傾いて足元まで浸水しているのに、乗客自身が「まだ大丈夫だ」という正常性バイアスに加えて「みんなも一緒だし、誰も逃げないので大丈夫」という多数派同調バイアスで船内にとどまったことが、結果的に大量の犠牲者を出したというのだ。
自分に置き換えてみて、あの状況で冷静に脱出できたかどうかはわからないが、人の心はかくも巧妙で繊細であり、異常時に冷静かつ的確な判断がいかに難しいかを感じる。
災害はいつ何時、どのような形で降りかかってくるかわからない。だからこそ、いろんな場面を想定したシミュレーションが必要で、想像力が身を救うことにつながるとも思う。改めて教科書をめくってみた。
“デマ”は不安と混乱の元になる=熊本地震で拡散した「ライオンが逃げた」
防災士教本=読み応えもあり面白かった
