2026年10月17日(土)

コラム・エッセイ

防災はまちづくり?⑩ 《バイアスを考えるⅠ》 

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 今、さまざまな分野で「バイアス」が語られることが多くなった。バイアスとは先入観や偏見、思い込みなどのことで、心理学の用語だ(と思う)。専門家でもなく詳しく調べたわけでもないので聞き(読み)流してもらいたい。

 ちょっとまわりくどい話になる。山歩きをするようになって何十年にもなるが、なぜ山に登るのか?と聞かれても格好よく誰もが納得できるような回答ができなかった。

 学生のころは山の本を読んで答えを探そうとしたこともあった。消化不良のままに生かじりの言葉をつないでテントの中で酒を片手に仲間と「登山論」を放言していたことを思い出す。今思えば赤面ものだが、山歩きそのものが「バイアス」に支配されていたことに気付いた。

 山歩きはほかのスポーツのように競い合うのはなじまない。もちろん最速で百名山を登ったとか、エベレストに最高齢で登ったなど、世間が注目する記録を狙う登り方もある。これは一部の人たちのことだが、多くの人にとっても自分の力量に対する“挑戦〟を続けていけば究極はそこに至るかもしれない。

 この“挑戦〟の積み重ねこそが山歩きの醍醐味(だいごみ)だ。そもそも山歩きなどというのは重荷を背負って全身の力を使い、自分ではコントロールできない自然環境の中にあえて入って行く行為だ。一瞬の判断ミスが事故につながるリスクそのものだ。

 山に入門してある程度の経験を積むと、日本アルプスに代表されるような高山の岩稜をよじ登ったり、雪山にあこがれるようになるのだが、それらのリスクはさらに高くなる。山に興味のない人からは「何でそんな危ないところにえらい思いをしていくのかわらん」と言われる。

 でも行けると思うのは、今までにたくさんの人が挑戦しているし、事故の割合は大したことはない、というバイアスがかかっているからだ。さらに先輩から「お前なら簡単だ」などとおだてられると天狗(てんぐ)になって自分は大丈夫だと錯覚する。

 運よく無事に帰ることができると、もっと高いリスクのある山に挑戦することになる。これはリスクに挑戦することによる覚醒作用と、達成したことによる快感との二重の喜びがあるからだともいう。こうなったらほとんど中毒症状で、一説では、ある意味で病気らしい…。

 逆に山の事故はなぜ起こるのかも、この「バイアス」で説明がつく。山の事故は自分の身体的、精神的な能力以上の負荷がかかった時に起こる。要は無理をして落ちた、滑った、力尽きたなどや、雪崩や強風、低温などしょせんは人間の力では到底太刀打ちできない環境に身をさらした時だ。

 判断を誤ったとか、技量不足だと後からいうのはたやすいが、その現場で「自分は大丈夫だ、こんなはずはない」と的確な判断ができない「バイアス」に支配されていたからにほかならない。災害時に助かるヒントはこの「バイアス」を知ることにもあるようだ。

北鎌尾根に1人で挑戦=多くの人が挑戦しているし、自分もきっと大丈夫だ…

山の事故は能力以上の負荷がかかった時に起こる

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