コラム・エッセイ
今年の初登山2018③
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修伯耆大山(ほうきだいせん)の正月はこの二年ほど雪が少ない。本来は豊富な積雪と標高八百メートルと気温も低いので、雪質も良く春遅くまで滑ることのできる西日本屈指のスキー場としても有名だ。そんな雪の大山の魅力は枚挙にいとまがない。
話はちょっと古くなるが大山の雪にまつわる強烈な思い出がある。もう六、七年以上も前だったと思うが、年末に登った時のことだ。
天気予報は雪模様で遅くなるほど悪くなるという。それなら早く登って早々に家路につこうと早朝、日の出前から登り始めた。六合目を過ぎると雪雲の中のようで、降りしきる雪で視界は数十メートルほど。さらに上れば猛烈な吹雪となってほとんどホワイトアウト状態となった。
山頂の避難小屋で一息ついたものの突風が吹く度に小屋がドーンと鳴ってきしむ。鉄骨造りの頑丈な建物なので壊れはしないだろうが、このままでは下山できなくなる。予備食も防寒着もあるので、一晩なら我慢できるかもしれないが決して快適ではない。寒さで震えながら一睡もできないだろうし、あすが好天という保証もない。
思い切ってホワイトアウトの中を帰路についたが、猛烈な風でトレース(踏み跡)は消え、記憶している方角や傾斜だけが頼りのヒヤヒヤの下山となった。地図を出すとかコンパスを出すという余裕なんてない。レンズにねばりつくような湿雪ではゴーグルをしていてもほとんど視界が得られない。手袋の先でレンズの雪をかき落とすものの、すぐに雪が張り付いて使い物にならない。
とうとうゴーグルを外したが、目や顔にじかにバチバチと雪が叩きつけるので痛くてまともに顔を上げられない。足元か風下にしか顔を向けることができない。それでも一瞬だけ顔を上げて進む方向を確認して何メートルか歩き、また一瞬だけ周囲の確認の繰り返しだ。神経をすり減らして何とか風の弱まる樹林帯まで下って胸をなでおろした記憶がある。
安心したのも束の間で、大山寺の駐車場に停めた車の屋根には半日ほどで雪が数十センチも積もっている。四駆だが、バンパー以上の積雪では全く動きが取れない。幸い冬山装備としてのシャベルのおかげで大汗をかいて除雪して何とか脱出できた。
この日は鳥取県の沿岸部を中心に記録的な豪雪となり、国道でも雪のため立ち往生した車が相当数あるというニュースを聞いた。その後、数日間も身動きがとれずに沿道の人が炊き出しをしたという。こうなったらもう災害だ。
あの日、山頂の避難小屋に何人か残っていたと思うが、彼らはその後すぐに下山したのだろうか。もし残っていたとしても寝袋などお泊まりの装備がなかったら過酷な状況だったはずだ。決して自慢できるネタではないが、命の危機も感じた忘れられない思い出だ。
今年の正月の大山は雪こそ少ないものの、六合目手前で振り返ればキラキラと光る樹氷の合間から美保湾にゆるやかな弧を描く弓ケ浜が見えた。
今年も雪が少ない=ところどころ木道が出ている
六合目の避難小屋=例年はすっぽりと雪に覆われているのに…
樹氷の向こうに弓ケ浜が見える
