コラム・エッセイ
東北急ぎ旅③
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修福井、加賀、金沢と夜の北陸道をひた走る。日付はすでに変わっているが、夜明け前で何も景色は見えない。このあたりの地名は何かと耳にする機会も多いが、今まで訪れたことはない。
大昔、JRが民営化される前の国鉄だったころ、一度だけ青森から大阪まで運行していた急行「日本海」に乗って十数時間かけて南下したことがある。このあたりを通っているはずだが、夜中で居眠りをしていたからか車窓からの景色を全く記憶していない。
強烈な思い出は、発車する際の先頭客車の連結器の「ガタン」という音と衝撃。機関車に牽引された長大な客車の編成なので、これが最後尾の車両まで連続する。乗っている車両の番になると、ひと際大きな音と衝撃でその度に目が覚める。
座席は背もたれと座面が直角で、何度も入れ替わる隣や向かい合わせの乗客が他人となれば、小心者では体を横にすることも足を伸ばすこともできない。別途料金を払えば快適なグリーン車もあったのかもしれないが、貧乏学生には初めから選択肢になく、およそ快適とは程遠い苦痛だけの列車の旅だったことを思い出した。
富山を前にようやく東の空が明るくなってきた。富山は立山や剱岳(つるぎだけ)の登山基地ということもあり、何度も足を運んだことがある。車でなく電車でだが…。晴れていれば雪の立山連峰を望めるかもと少々興奮気味だ。
それと今回の旅のルートならではの期待は、この先の親不知(おやしらず)を通ることだ。明治時代に日本の“近代登山の父〟とまで言われたウエストンが「北アルプスの起点は親不知だ」と言ったことから、登山者にとっては聖地とまではいわないが、特別な場所なのだ。
前年に唐松岳から後立山、裏銀座と一週間かけて南下したが、次の目標は唐松岳から北上し、この親不知をゴールにして日本海にタッチすること。これにより北アルプスの全山縦走も完遂となる。
そのプランを地図上で追いながらゴールを妄想している最中でもあり、先にこの地と海抜ゼロメートルから始まり、次第に高度を上げて朝日岳、白馬岳へと3,000メートルの峰々へと続く山容を眺め、イメージを膨らませておきたいからでもある。
車窓から右手の山々をわくわくしながら地図と照らし合わせながら眺めるものの、雲が厚く、標高の高い山をうかがうことはできなかった。
それでも「あの尾根を下りるんだ」「唐松岳から四日はかかるかも…」「ゴールは日本海にタッチしてその後は温泉につかって祝杯だ」などと同乗のメンバーに解説するが、「あーそう」程度の反応しかない。
そりゃそうだろう。山の形状はどこにでもあるような、特徴も迫力もなければ、派手さもない。山に関心のない人にはどうだっていいことだ。多くの人からすれば右手の山よりもむしろ左側の断崖迫る海岸風景のほうが気になるのだろう。
山の解説などほとんど無視をされているが気にならない。厚い雲の先の峰々への妄想はとまらない。
今回の旅のルートならではの期待は親不知を通ることだ=厚い雲の先の峰々への妄想はとまらない
