コラム・エッセイ
東北急ぎ旅⑩
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修被災して何もかもを失った人にとっては、雑魚寝の避難所生活よりはプレハブでも応急仮設住宅の方が快適だとは思う。しかし、長年住み慣れた愛着のある家や家財が跡形もなくなるということは無念としか言いようがない。設備だけ一通りのものが揃っていても決して癒やされることはないのだ。
当事者でもないものが、うわべだけを眺めて「案外ええじゃないか」などと軽々しく口にしたことに家族の眼付きが一瞬変わった。いい歳をした、本来なら分別のある社会人としての言動ではなかったと反省してしばらくは沈黙。
ただ、新聞で読んだ一戸当たり9坪の建設費が国の定める基準額の3倍近く、700万円にもなっているという記事を思い出した。建物だけでなく、土地の造成から始まり、上下水道や備品、撤去費用までも含まれているのかもしれないが、ちょっとびっくりしたのだ。
まさかとは思うが、未曾有の大災害に乗じた利権が絡んでいるというようなことだけはないことを祈る。
ところで、山口から岩手まで随分と長旅をしてきたが、考えてみればきのうの今ごろはまだ仕事をしていた。どたばたと仕事帰りにそのまま出発し、夜通しのドライブで風呂にも入っていない。夜の交流会までにもう少し時間があるので一風呂浴びたいところだ。
酒を飲み始めると歯止めがきかなくなるのが常で、揚げ句に着の身着のまま寝込んでしまう事態を子供のころから見て熟知しているからか、娘がせっかくなので近くに温泉施設があるので案内するという。
初めて知ったのだが、大船渡市の北側に五葉山(ごようざん)という1,300メートルほどの山がある。高さだけを言えば山口県の寂地山といったところだが、大きな違いは寂地山が中国山地のど真ん中、つまり山奥のまた奥に名前の通り隠れるように寂しくそびえているのに対し、この山は三陸の沿岸から直接高度を上げていることだ。
山頂からは絶景のリアス式海岸風景を間近に眺めることができるらしい。なんでも六月になるとツツジやシャクナゲの大群落が見られるとあって、この辺りでは超人気の山とのことだ。しかも車でかなり上部まで上がれるので、地元の人にはお手軽な半日コースらしい。
遠路訪ねてきた山好きの親を喜ばそうという親孝行からか、登山口でもある峠まで行ってみようという。温泉施設はそのルート沿いなので帰りに風呂に入って帰ろうという計画を立てているようだ。
地理不案内な土地で親父風を吹かせてもしかたがない。借りてきた猫のように、いや「老いては子に従え」か…。言われるがままに助手席に座る。
登山口の駐車場から山頂方面を眺める。ツツジやシャクナゲの開花にはまだ早いようだが、山肌が赤く染まる景観は想像できる。たおやかに延びる尾根筋を目で追いながら、機会があれば花の時期にも訪れてみたいものだと夢はふくらむ。
応急仮設住宅の建設費が基準額の3倍にもなったという
登山口の駐車場から五葉山を眺める=いつか花の時期に訪れたい
