コラム・エッセイ
東北急ぎ旅⑯
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修山育ちの田舎者は子どものころから海を見るのも汽車に乗るのも特別な時だけだった。今思えば決して快適にはほど遠い座席や振動、音だったのだろうが、車窓からの景色にワクワクドキドキしていた記憶がある。
最近は年に何度かは新幹線に乗る。車の運転をしなくてよいのと旅の解放感でホームに立つ前には必ず缶ビールを仕入れておく。上り列車の場合は広島駅を通過する前で空になる。運よく車内販売のカートが通りかかってくれれば、迷うことなく呼び止めて2本目を買い求める。
これがタイミングによっては福山あたりまでやってこない。このわずか30分足らずが何とも待ち遠しくて前や後ろのドアが気になりはじめる。そんなこんなで新大阪を過ぎるあたりではすっかり出来上がって夢見心地となるのがお決まりだ。
車窓からの景色を楽しむという感覚は微塵(みじん)もなく、うつらうつらと至福の時が過ぎてゆく。つまり酒飲みのオヤジということだ。たまに隣席の客が同類となればピッチはさらに上がって目を覚ませば終点ということもある。
三鉄の大船渡から南リアス線の列車に乗り込むが、きょうは缶ビールを持ち込めない。何しろ終点の釜石まで乗って、あとは山越えをして秋田までの運転を控えている。運転要員として息子もいるが、駅から赤い顔をしてよろよろと出てきたのでは父親としての示しがつかない。それに、本当はまだ昨夜の酒が残っている。
この南リアス線は盛駅から終点の釜石までおよそ50分。始発の盛駅からの乗客は我々も含めて10数人ほどで、ほとんどがよそ者といった風で地元民らしき人は見当たらない。日曜日で通勤や通学客がいないからでもあろうが、地方の公共交通の現実を目の当たりにする。
乗車率はよくないが、お陰で気がねなくボックス席を独占できた。これでのんびり海岸風景を眺めながら昨夜の毒抜きができるぞ。
ところが発車してまもなく期待を裏切られた。というよりは気付きの時となった。何しろこの線路は小学生でも知っているリアス式海岸を串刺しに通っている。海岸が見えたと思えば間もなくトンネルに入ってしまう。駅と駅の間はほとんどがトンネルだ。しかも数分で次の駅ともなれば、発想を変えなければならない。
唱歌「汽車ポッポ」の歌詞を思い出す。「鉄橋だ 鉄橋だ楽しいな♪」「トンネルだトンネルだ 楽しいな♪」まさに歌通りだ。「シュッポ シュッポ シュッポッポ」と歌詞のモチーフはSLだが、車窓から眺める次々に変化する風景は歌詞通りと思わなければならない。
酒や邪心から、子どものころに乗った汽車から見た風景に感激できた純真さを、置き忘れてしまっていたようだ。
始発の盛駅からの乗客は十数人ほど=地方の公共交通の現実を見る
駅の先はすぐにトンネルだ
車窓からは防潮堤の工事風景も見える
