2026年06月20日(土)

コラム・エッセイ

東北急ぎ旅⑲

おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修

 夏季限定の別荘地としてならいざ知らず、標高1,000メートルのおよそ人が住めないような山上に、朽ちて赤さびの鉄筋がむき出しになった構造物が建っている。それが1棟や2棟ではない。広大な原野に点在し、場所によっては数棟まとまっている。その多くが数階建てのアパートといった風で、かつてここに多くの人が住んでいたことがわかる。

 連想したのは軍艦島の異名を持つ長崎県の端島だ。炭鉱の島として大正時代から当時としては珍しい鉄筋コンクリート造りの高層アパートが建ち始め、最盛期には五千人を超える人が住んでいたという。ただ、世は石炭から石油の時代となり、半世紀近く前に閉山して今に至る。

 海に浮かぶ軍艦さながらの威容は有名だ。取り崩されることもなく、ただ朽ちるにまかせて廃虚と化していたが、近年の廃虚ブームや遺産ブームで上陸ツアーもあるらしく、観光地として経済効果も億の単位とも聞いた。

 一方、この八幡平の荒野に建つ鉱山跡のアパート群は、かつての硫黄採掘で東洋一ともいわれた松尾鉱山の従業員の住居跡だ。明治期に採掘が始まり、最盛期には1万人以上が暮らしたというから、軍艦島以上のにぎわいがあったことだろう。

 鉄筋コンクリート造りのアパート群と学校や病院、娯楽施設も備わった当時としては近未来的な都市がそこにあったのだ。やはり、石油の時代となり、皮肉にも公害対策のための脱硫が義務付けられると、副産物の硫黄が安価に大量に供給されることとなり、石炭産業と同じく半世紀前に経営難から倒産し、そのまま放置されているという。

 八幡平を訪れる人は多いが、廃虚マニアか、たまたま通りすがった人が目にする程度かもしれない。土産物屋もなければ案内看板さえない。しかし、立派な道路が続き、ガードマンやバリケードが進入を規制しているわけでもない。

 一応は危険なので事故があっても責任はとらないという趣旨の看板が道路脇に立ってはいたが、その気になれば誰でも近づくことができる。

 考えてみれば、軍艦島やこの松尾鉱山の歴史だけが特別なわけではない。かつては飛ぶ鳥を落とす勢いで御殿まで建てた実業家の家門でも末裔の消息が不明というのも多い。わずか半世紀のスパンのうちに多くの商店や事業所が姿を消していくのも目にした。

 目を転じれば地域の中でも空き家が増えるスピードが加速していることを実感する。それぞれの家に歴史があり、その地の風土と一体になって脈々と続く暮らしがあったはずだ。

 少子化など社会的な課題がそうさせたのか、グローバル化の潮流で生きるすべを奪われたのかはわからないが「おごれる者も久しからず…」と栄枯盛衰は世の習いでもあることを改めて感じ、自らの終焉(えん)の仕方も案じ始めねばと思うひと時でもあった。

かつての硫黄鉱山の従業員のアパート群=当時の最先端技術で建てられた

朽ちて赤さびの鉄筋がむき出しになっている=いつ落ちても不思議でない状態だ

事故があっても責任はとらないと書かれた看板

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