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記者レポート : 周南市のニュース
【山口県周南市】部活動改革、見えないゴール
記者レポート周南市地域移行、会場は? 指導者は?
来年度スタートも方向性未定
文部科学省の主導で進められる中学校の部活動の地域移行。山口県周南市の秋月中(秋本泰宏校長、161人)では2021年度から「やまぐち部活動改革推進事業」の研究指定校となって一足早く、平日は部活動指導員、休日は地域が活動の主体となって地域指導員が部員を指導している。23年度からは他校にも展開される可能性があるこの部活動改革。各市教委などで模索が続く中、課題を探った。
(延安弘行)
秋月中が研究指定校に
この部活動改革では、教員の働き方改革として部活動の指導を地域に移すことによる教員の負担軽減と、少子化の中で生徒の部活動の維持を狙う。
同校の部活動は軟式野球、ソフトテニス男子、同女子、バレーボール女子、卓球、吹奏楽、美術の7部。年度当初、このうち美術を除く6部に指導員を配置した。現在は仕事の都合で1人が辞職したため、5人が指導する。そのうち野球部とバレーボールは元教員。そのほかは専門的な指導ができる競技の経験者が担当する。いずれも市体育協会のスポーツリーダーバンクからの紹介。
同校では平日の1日と土、日曜のどちらかの計2日間は部活動を休みにしている。部活動指導員は学校の非常勤職員、地域指導員は市教委からの依頼だが両方を兼ねている人もおり、週に5日、顧問の教員と一緒に部員を指導している。
部員は専門的な指導を受けられ、顧問の教員にとっては部活動以外の仕事と重なった場合、指導員に子どもたちの見守りを依頼するなど仕事で融通も利く。密度の高い指導となり、この2年間、運動部の成績は向上し、すべての部が市内の大会を勝ち抜いて県大会に出場して野球部はベスト8に入った。秋本校長は「今のところはうまくいっている」と歓迎している。
ただ、現在は同校単独の事業。これが地域移行によって複数の学校の生徒が一緒に練習したり、試合に出るとすれば、練習会場への移動や、これまでの地域とのつながりが課題になる。指導員の費用も現在は市教委が負担しているが、今後、父母にも負担を求めるのかも課題になる。
もうすぐ2学期。部活動改革の他校への拡大まで半年だが、市教委からはこれらの課題をどこでどう検討、調整していくのか、方向性や協議の場も示されていない。
指導員として同校の卓球部を指導している笠井貴史さん(27)は市体育協会の職員。小学3年から中学、高校、大学、社会人と卓球を続けてきて、指導員として夕方から部員を指導している。「生徒は専門的知識を得られる機会が増える」と歓迎する。将来像については「スポーツ少年団を中学まで延長する感じなのか。小中を通じて最長9年間面倒を見られる」と描く。
一方、指導員の人材確保には不安もある。笠井さんの場合、職場の理解があるが、連日2、3時間、部員の指導のため仕事を離れることができる人がどれだけいるのかもまだわからない。
「市町間の連携も」
将来像が明確でないなかで進む部活動改革。この事情は本来であれば、国、県の方向性に沿って方針や具体策を示す立場の市教委も8月上旬の現時点では同じ。同市の厚東和彦教育長は「完成形が十分に伝わってこない。これが見えれば動くことができる。課題とされていることが本当に課題なのか、解決されていくのかもこれから」と話す。
今回の改革のもとになっているのは6月にスポーツ庁の有識者会議の「運動部活動の地域移行に関する検討会議」の提言。8月中に文化部の活動について同様の提言があり、これを受けて国、県が方向性を示し、市町教委、各学校がそれぞれ方針を定めて動く。
提言では「休日の運動部活動から段階的に地域移行していくことを基本とする」としてその目標時期を来年度から2025年度までの3年間としている。スタートまで残された時間は多くない。
少子化はまったなし。特に小規模校の部活動の種類は限られ、秋月中でもサッカー、バスケットボールなどスポ少年で人気の競技が部活動では続けられない状態。
しかし複数の学校の生徒が一緒に活動することになった場合の会場の確保や生徒の移動▽指導者の確保▽保護者の経費負担など調整の必要が想定される事項は少なくない。
しかも全国一斉の取り組み。県内の市町では複数の中学がある市もあれば、1校しか中学がない町もある。厚東教育長は生徒が取り組めるスポーツの市町間格差を広げないためには「市町の境を超えての連携」も欠かせないのではと指摘する。
指導者では周南市の場合、法人化され、スポーツ施設の指定管理を含めてスポーツ振興の実績のある市体育協会があり、スポーツ活動が盛んな企業もある。さらに周南公立大には2年後にスポーツ分野の新学科も創設される。だからといって、これらの「資源」を周南市だけで独占というわけにはいかないかもしれない。
下松市は協議会設置
下松市では部活動の地域移行に向け、スポーツ、文化関係者、PTAを含めた学校関係者で小中学校部活動地域移行推進協議会を設置して、6月28日に1回目の協議会を開いた。
協議会ではスポーツ庁に提出された提言をもとに、休日の部活動の地域移行から取り組もうと話し合った。現在は受け皿の確保が重要で、持続可能でなければいけないことから、国の動きも見ながら「じっくり考えていこう」という姿勢。
同市の中学校は下松、末武、久保の3校があり、下松中と末武中は大規模校。運動部は13競技、文化部は9分野の活動がある。地域移行はスポーツ行政を所管する地域振興部の地域交流課が中心になって市教委学校教育課と連携して取り組んでいる。
光市では市教委の教育開発研究所の部会で調査、研究をスタートさせていて、今後、意向調査や協議会の立ち上げを進める。国、県の動向を見ながらの作業で、意向調査の対象や協議会の構成も未定。同市は市立中学校5校と山口大教育学部付属中があるが、市立中学校では少子化で人数不足の部活動もあるという。
地域移行にあたっては、会場、経費、指導者確保のほか、中学生のスポーツ活動の指導を実際に担っている教員のモチベーションがどこへ向かうかも課題。教員が休日の地域指導員を兼業兼職することも想定されている。大会で勝つことを目指す生徒とスポーツを楽しみたいという生徒が存在するニーズの多様化をどうするのかも、考えなければならない。
希望するすべての子どもたちが運動、文化活動に取り組み続けるための「改革」。期待と不安が入り混じる。一方で課題になりそうなことがすでに示されているという一面もあり、解決に向けた動きも少しずつ進む。すでに走り始めた改革。もう後戻りはできない。