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記者レポート : 周南市のニュース
[あれから10年]あの燃料電池自動車は今? 問われる官民一体の取り組み
記者レポート周南市
「あの施設、あの取り組みはどうなったのか」―日刊新周南では10年をひとつのスパンととらえ、周南3市の施設や取り組みの10年後の姿を追う連載“あれから10年”を始める。1回目は2015年8月に周南市にオープンした中四国初の水素ステーションをきっかけに始まった、燃料電池自動車(FCV)の普及とその取り組みを調べた。
(山上達也)
水素ステーションの市有地貸与延長
燃料電池自動車は水素と酸素の化学反応で発電して電気モーターを動かす仕組み。走行時にCO2を排出せず、ガソリン車に比べて環境への負荷低減へ貢献が大きい。静粛性や加速性能も高い。
周南市は「究極のクリーンエネルギー」として水素の利活用に注目。15年に中四国で初めて燃料電池自動車に水素を充てんする水素ステーション「イワタニ水素ステーション山口周南」をオープン。周南市鼓海の市有地1,259.7平方メートルを同年から10年間、㈱岩谷産業に無償で貸与した。この貸与は今後も10年間延長されることが、このほど決まった。
登録台数は微増にとどまる
市商工振興課コンビナート脱炭素推進室によると、昨年度末現在で燃料電池自動車の市内の登録台数は52台で、2021年度の35台▽22年度の38台▽23年度の43台と微増中。52台のうち個人所有は29台で、ほかに民間事業所8台▽市3台(うち1台はレンタル)▽県1台▽自動車ディーラー9台など。
市のレンタル車両は平日には公用車として使い、閉庁日は所有者のトヨタレンタリース山口を通じて市民や観光客などに15分間275円(消費税、自動車保険、燃料費込み)で貸し出している。昨年度は27件の利用があった。
県内ステーションは周南市のみ
市は県とともに燃料電池自動車の購入にあたって1台100万円を助成。さらに国からの補助を加えると公的助成額は1台当たり250万円になり、800万円前後の燃料電池自動車なら約550万円で購入できることになる。ただし市、県、国の助成を利用する場合、対象者や対象車種に制限がある。
さらに市はイワタニ水素ステーション山口周南で充てんする燃料費の半額を助成している。市民以外も対象で、1キログラム1,650円の燃料が825円で充てんできる。大半の燃料電池車は5キログラムが満タン。1キログラムの燃料で500キロメートル走行でき、燃費は相当いい。同ステーションではドライバーがセルフで燃料を充てんする。
しかし燃料を充てんするステーションは県内ではまだ周南市にしかない。隣の福岡県や広島県にステーションはあるが、その増設に向けた機運は、まだ山口県内にはない。
次の10年へ“水素産地”の特性生かせ
周南市は㈱トクヤマなど周南コンビナートで大量かつ高純度に水素が生成される地域的な特性がある。市は第2次水素利活用計画を昨年4月に策定。計画終了の2030年度に向けて、市水素利活用推進協議会を通じて2050年の“水素社会”への具体的な政策を検討、推進していく。
10年前の同ステーションの開所式では、経済産業省の中国経済産業局長や村岡嗣政知事、当時の木村健一郎市長らがテープカットをして盛大に祝っている。今後の“次の10年”でどれだけ水素都市周南の地位がアップし、燃料電池車が普及していくのか、官民双方の手腕と取り組みが問われている。
