コラム・エッセイ
No.86 442年振りの皆既月食
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子11月8日(水)は、442年振りの、皆既月食の日であった。老いて何事にも無頓着になり、おまけにコロナ禍で家に閉じこもっている私には、久し振りに胸の高なることであった。
夕方、表のシャッターを締める時間が、お隣のK子さんちと一緒であった。
「ねえ、今日の皆既月食はどこで見るのがいちばんいいのかしら」
「さあ、私にもよくわからないわ」
と言う会話で、2人して有楽町界隈の見物場所を探しに出かけた。
徳山駅北口から御幸通りに続く広い道路で空を見上げたが、まだ夕暮れには早く、月は出ていなかった。
何しろ、この月食を逃すと、次に観ることが出来るのは、322年後だ、そうだ。私が長生きしても、せいぜいあと5年だろう。
一旦、帰宅して、夕食の仕度をしながら待とうと言うことになった。それから2人は、それぞれ、家を出たり入ったりして、月の出を待った。
「お姉さん出たわよ」
K子さんの声は、我が家の狭い路地裏から聞こえた。急いで路地裏に出た。K子さんの指差す方向を見ると、狭い路地の、しかも垣根越しの高層ビル横に月は出ていた。
「なーんだ、遠くに行かなくても、ここが立派な見物場所とはね」
すでに、部分月食は始まっていた。月の上弦に、地球がかかり、薄赤黒くなっている。太陽と地球と月が一直線に並んだ時に起きるのが、皆既月食と言うのだ、そうだ。
その現象は、約1時間ばかり続くと言う。
辛抱強いと自認する私だが、遅々としてしか進まない現象を、じいーっと、見ている程の辛抱強さがない。たとえ、322年後にしか見ることが出来ない、としてでもだ。
待つ身の辛さ、長さもどかしさに、いらいらするのは久し振りだ。物忘れがとみにひどくなってきた昨今の頭で遠い昔を思い出した。
エヘヘ、独身時代、ボーイフレンドとの待ち合わせ時間に現れぬ奴。結婚してからは、外出した夫が、いつ帰るかわからず、いらいらしながら待つ可哀想な私。子供たちが成長してからの学校帰宅時間、それは、クラブ活動などのため定まらぬ時間や、遊び呆けて…の事などなど。
ところが今は、それら全てから解放され、全部私の時間で、使い放題だ、かと言って、上手に時間を使っています…とは決して言えない…のですが。
あと、わずかになった私時間を、いかに上手にし、使い切るか、という事も、考えさせてくれた、天体ショウでも…ありました。
