2026年06月26日(金)

コラム・エッセイ

再び 卯月(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 冬の寒さを乗り越えて桜は花を咲かせます。今年は寒さがゆるかった上に3月の菜種梅雨も影響したのか、桜の開花が遅れました。4月に入ってもゆっくりと花見が楽しめます。久しぶりに花の下、入学式を迎えられそうです。社会人1年生も新たな気持ちで職場の仲間入りをされたことでしょう。

 職場ではトップの祝福と期待のメッセージに若者たちは耳を傾け、これから入学式の学校では校長先生のお祝いの言葉に子どもたちは胸をふくらませます。スタートラインに立った人たちはいろんな経験を積んで自らの人生の道を切り拓いていきます。「頑張って!」と先輩たちは温かい声援を送ります。

 人にはそれぞれ心に沁みる言葉があります。人生は楽しいことばかりではありません。むしろ辛いことのほうが多いかもしれません。くじけそうになった時に励ましてくれる言葉がどれほど有り難いことか。苦しい時だからこそ胸に響きます。

 たったひとりしかない自分を、たった一度しかない一生を、ほんとうに生かさなかったら、人間、生まれてきたかいがないじゃないか。 

 作家の山本有三が『路傍の石』で書いている一節。この言葉は私の多感な青春時代を支えてくれました。有三は栃木市生まれで高等小学校を卒業後、家業の呉服商に就きましたが22歳で旧制第一高等学校へ。さらに東京帝国大学独文科で学びました。昭和11年から21年まで家族と暮らした三鷹市の自宅で『路傍の石』を執筆。玉川上水沿いにある、この家は現在、山本有三記念館として公開されています。

 文学座の杉村春子が演じた『女の一生』。劇中の布引けいが語るせりふも同じように心に残りました。劇作家の森本薫が春子のために書き下ろした代表作。昭和43年6月に当時の徳山市市民館でも上演されました。

 誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩き出した道ですもの、間違いと知ったら自分で間違いでないようにしなくちゃ。

 その時の心の有り様で言葉がストンと落ちてきます。胸に刺さる言葉は齢を重ねて理解も深まります。

 4日は二十四節気の「清明」。天も地もすべてのものが明るく清らかな季節です。晩年を徳山の地で過ごして昭和32年に没した清明の俳人、兼﨑地橙孫。彼の辞世の句を刻んだ句碑が上御弓丁にあります。しみじみと味わえる齢になりました。

 今日の日を包みて了へぬ花芙蓉

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