コラム・エッセイ
再び 皐月(一)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)「夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る‥」。手遊びしながら親しんだ「茶摘み」の歌。風薫るさわやかな初夏へ。1日が「八十八夜」、5日は暦の上で「立夏」。「こどもの日」とも重なりました。山里では鯉のぼりが中空を泳ぎます。新緑がまばゆい季節です。
若葉して御目の雫ぬぐはばや
奈良・唐招提寺の開祖、鑑真和上の像を拝して芭蕉が詠んだ一句。鑑真は唐の僧で、渡航の苦難を乗り越えて来日し、失明しながらも布教に務めました。唐招提寺は聖武天皇のご冥福を祈りつつ草創した寺です。ギリシャの神殿を思わせる円柱の立ち並んだ金堂は清楚な美しさがあります。亀井勝一郎は『大和古寺風物誌』の中で「法隆寺や薬師寺や東大寺に比べると格式もちがうし由緒も深いとはいえない。しかし唐招提寺には他のどんな古寺にもない独特の美しさがある」と称えます。
おほてら の まろき はしら の
つきかげ を つち に ふみ つつ
もの を こそ おもへ
美術史家で歌人の会津八一は歌集『鹿鳴集』の「南京新唱」でこのように詠みました。南京とは奈良のことです。仏像鑑賞のため早稲田の学生を連れてよく奈良を旅しました。八一にとっても「観佛三昧」の日々でした。
「奈良大和路のみほとけ―令和古寺巡礼―」。心惹かれるタイトルをつけた特別展が山口県立美術館で開催されています。はるか千四百年の昔から数多くの寺院が建立されました。慈愛に満ちた「みほとけ」に誘われて文士たちがたびたび訪れた土地です。和辻哲郎の『古寺巡禮』(大正8年初版・岩波書店)は大きな影響を与えました。
「総て推古天平の最も偉大な作品は、観音に尽きると云ってもいい程である」(和辻哲郎『古寺巡禮』)、「熱烈な夢や憤怒や悲哀に耐え、祈る、その昇華の刹那にのみ仏は在すのであろう」(亀井勝一郎『大和古寺風物誌』)。文士たちの言葉に誘われて身近に仏像を拝します。
法隆寺の国宝「観音菩薩立像」や毎年3月にしか公開されない大安寺の秘宝「伝馬頭観音菩薩立像」、唐招提寺の魅力的なトルソー「如来形立像」など貴重な仏像を拝観できる、絶好の機会。曼荼羅や工芸品など46点も展示、奈良を愛した入江泰吉の写真が雰囲気を盛り上げます。会期は6月9日まで。大和路のみほとけの世界へどうぞ。心静かな時が流れます。
やまと には かの いかるが の
おほてら に みほとけ たち の
まちて いまさむ
