コラム・エッセイ
再び 皐月(三)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)枇杷が店頭に出回り始めました。赤みを帯びた黄色のふんわりとした形が印象的な果実です。
やはらかき紙につつまれ枇杷のあり 篠原 梵
箱の中に詰められた贈答品の枇杷でしょうか。傷つかないように一つずつ薄い紙に包まれています。その質感が伝わり、甘い香りまで漂います。枇杷と言えば長崎の茂木枇杷が有名です。幕末に中国から長崎代官所に入った枇杷の種をそこで働く人が自宅の庭に植えたのが始まりと言われます。今では長崎県の特産品です。
山口県では祝島の枇杷が知られます。上関町の沖合に浮かぶ小さな島。地理的にみて大分県国東半島とも交流があります。国東町の伊美別宮社から御神霊を迎えて4年に一度の神舞が奉納されるなど魅力的な土地です。古式ゆかしい祭事は今年8月16日から3日間催されます。練り塀の小道を上れば眼下に瀬戸内の海が広がります。半農半漁で生きてきた島人の暮らしを思います。
磯の香に峙つ山も枇杷のころ 水原秋桜子
この俳句のような情景でしょうか。山口県産の枇杷は6月に入れば収穫も最盛期です。
びわは
やさしい きのみだから
だっこ しあって うれている
うすい 虹ある
ろばさんの
お耳みたいな 葉のかげに
徳山で生まれ育った詩人、まど・みちおの「びわ」の一節。枇杷の特徴を上手に表現しています。明治42年(1909)11月16日生まれ。毎年その時期に周南市文化会館で「まど・みちおコスモス音楽会」が催されます。幼稚園・保育園園児の元気な歌声がホールいっぱいに響きます。この舞台を盛り上げてくれる地元の合唱団「くるみ女声合唱団」と「コール・かとれあ」。彼女らの大好きな歌の一つでもあります。磯部俶が曲をつけた「びわ」はふんわりとした温かい雰囲気に包みこんでくれます。
私たちが子どもの頃は近所の家々や裏の庭、畑で遊んでいました。家の前の道路も車はほとんど走らず、すべてが遊び場でした。裏庭に無花果や枇杷の木を植えている家も多くて遊びながら、もいでは食べていました。食料が十分ではない昭和20年代から30年代のお話。無花果や枇杷を見るといつもその頃のことを思い起こします。
