2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

又 文月(三)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 7月半ばを過ぎて蝉の声をようやく聴きました。「今年は蝉が鳴かないね」「猛暑で土の中から出てこられないのだろうか」などとよく話題になりました。真相はどうなのでしょう。22日の「大暑」からも日本列島は酷暑の日々。7月も今日まで。明日から8月葉月です。

 まなうらに今の花火がしたたれり  草間 時彦

 夜空に開いた花火の美しさ。一瞬にして消え去る花火のはかなさを表現した一句。まぶたの裏に残る映像を形にしました。学校が夏休みに入ると海辺や河畔で週末ごとに花火大会が催されます。夏の風物詩とも言える花火大会は若者や家族連れで賑わいます。人それぞれにさまざまな思い出が去来します。

 手花火を命継ぐ如燃やすなり  石田 波郷

 手花火は線香花火のことです。路地裏や庭先で楽しむ花火も印象に残ります。闇夜にほんのりと顔を照らす線香花火に思いを寄せる人は多いでしょう。パチパチ、チリチリ、チロチロ、ポトリ。どちらが長いか競争もしました。勢いが徐々に衰えて今か今かと消え入りそうな小さな火の玉をじっと見つめる眼と眼。どこか切なく子ども心にも感じました。人生の大半を病床で過ごした俳人石田波郷には命継ぐとまで思えました。手花火に命を見つめていたのです。胸に迫ります。

 去年のあなたの想い出が
 テープレコーダーからこぼれています
 ‥‥
 二人でこさえたおそろいの
 浴衣も今夜は一人で着ます
 線香花火が見えますか
 空の上から

 さだまさしと吉田政美が1972年に結成した「グレープ」。翌年デビューして2作目で大ヒットしたのがこの「精霊流し」。若くして旅立った従兄弟とのさだまさしの体験が歌になりました。ギターとヴァイオリンの前奏が哀しく切なく響きます。

 お盆も近づいて肉親や兄弟、友だちなど大切な人との思い出がよみがえります。齢を重ねるたびに別れが続きます。父や母を見送り、兄弟も一人二人と欠けて、幼なじみまで先立たれると世の無常に身がつまされます。「一人で生まれてきて一人で逝くのです」と耳にして「あゝ、そうなのか」と気づきます。子どもと線香花火を囲んだ日は遠く、日々をいとおしみながらこの夏をまた生きていきます。

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