コラム・エッセイ
又 葉月(一)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)暦は8月。7日は「立秋」。うだるような暑さに閉口します。北海道も九州も変わらぬ暑さに首をかしげます。避暑地で有名な軽井沢も暑いです。日本列島に避暑地はあるのでしょうか。
秋来ぬと
目にはさやかに見えねども
風の音にぞおどろかれぬる
この季節になると口ずさむ歌です。暑さの中にも涼しさを求める心があります。古今集に収められたこの一首は平安前期の歌人、藤原敏行が詠みました。風の音を聴覚で捉えた感性に驚かされます。猛暑にあえぐ日々。一日も早く感じ取りたい気分です。
8月15日は終戦記念日。昭和20年(1945)のこの日、ポツダム宣言を受諾して太平洋戦争は終結しました。6日に広島、9日に長崎に原爆が投下されて多くの命が奪われました。15日は敗戦忌。戦争の過ちを繰り返さぬよう平和への誓いを新たにする日です。今年は戦後80年。悲惨な戦争を体験した人も少なくなり、いかに語り継いで平和な社会を築くかが問われます。
昭和歌謡を代表する美空ひばりの曲に「一本の鉛筆」があります。「悲しい酒」「みだれ髪」「川の流れのように」などのヒット曲ではありませんが、一度聴くと胸に刻まれます。
♪一本の鉛筆があれば私はあなたへの愛を書く
一本の鉛筆があれば戦争はいやだと私は書く
この歌は、昭和49年(1974)8月、広島テレビが主催した第1回広島平和音楽祭で美空ひばりが初めて歌いました。音楽祭を総合演出した映画監督の松山善三が作詞、黒澤明の映画音楽を担当した佐藤勝が作曲しました。
♪一枚のザラ紙があれば私は子供が欲しいと書く
一枚のザラ紙があればあなたをかえしてと私は書く
♪一本の鉛筆があれば八月六日の朝と書く
一本の鉛筆があれば人間のいのちと私は書く
幼少時に横浜大空襲に遭い、父が徴兵される戦争体験をもつ美空ひばり。一人でも一本の鉛筆で反戦を訴えることができるという力強いメッセージが届きます。
周南市は今年一年、さまざまな事業を通して数々の戦争の記憶に触れながら戦後80年の想いを未来へ繋ぎます。3日、周南市文化会館での芝居『あゝ大津島 碧き海』もその一つ。人間のいのちを見つめて平和を希求します。
