2026年04月22日(水)

コラム・エッセイ

又 神無月(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 葡萄から梨へ、梨から林檎へと果物も季節とともに移ります。過ぎゆく夏の終わりに葡萄を味わい、梨の登場に初秋を感じました。今年も須金の農園で収穫した「二十世紀」に舌鼓を打ちました。秋彼岸を経ると林檎の出番です。果物の主役が梨から林檎に替わると徳佐に足が向きます。「秋映」「紅玉」から「新世界」「ふじ」へと林檎の美味しい季節になります。林檎にはどこか昭和の匂いが漂います。

 昭和歌謡を代表する美空ひばりの名曲とともに思い出されるからでしょうか。『リンゴ追分』の〈リンゴの花びらが/風に散ったよな/月夜に月夜にそっと/ええええ/津軽娘はないたとさ‥〉や『津軽のふるさと』の〈りんごのふるさとは北国の果て/うらうらと山肌に抱かれて/夢を見たあの頃の想い出/ああ今いずこに‥〉。昭和30年代から40年代にかけて高度経済成長の中で、地方の若者は仕事を求めて東京や大阪などの都会へ出ました。辛い日々に思い起こすのは故郷です。『リンゴ追分』も『津軽のふるさと』も郷愁を誘います。

 戦後の混乱期は外地からの引揚者や戦災に遭った人たちが縁者を頼って各地に生活の場を求めて移住しました。私が育った光市の生家近くにも青森出身の家族が暮らしていました。その家族のもとには秋になると青森から大きな林檎箱が届き、近所の人が買い求めていました。小学校に上がる頃の私が初めて林檎の産地を青森と認識した時で、北国の果ての青森とはどんなところだろうかと思いをめぐらせました。

 まだあげ初めし前髪の

 林檎のもとに見えしとき

 前にさしたる花櫛の

 花ある君と思ひけり

 島崎藤村の第一詩集『若菜集』の一篇「初恋」。東北学院の教師を辞めた明治30年(1897)、26歳の時に出版。私は高校の授業で習い、流れるような七五調のリズムとその生命力に充ちた詩に魅了されました。詩は四連から成り立って二連ではこのように詠んでいます。

 やさしく白き手をのべて

 林檎をわれにあたへしは

 薄紅(うすくれない)の秋の実に

 人こひ初めしはじめなり

 青春のいのちと情熱にあふれた詩は若者の心を捉えました。美しい情景に林檎が大きな存在感を示しています。あの頃暗唱した詩は半世紀を過ぎた今でも口をついて出ます。食卓を飾る林檎を眺めながら青春時代の秋の日がよみがえります。

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