コラム・エッセイ
又 霜月(一)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)秋が深まります。朝晩は冷え込むようになってストーブを出しました。7日は「立冬」。紅葉を楽しみながら山里では冬支度が始まります。
ともし火と砧の音のほか洩れず 後藤比奈夫
砧を打つ音も、暗闇に洩れる土間の灯も寂しくなります。晩秋の村の風景を「ほか洩れず」で表現。冷気を感じながらも灯に温もりを覚えます。
このような夜は読書が進みます。書棚に眠っている本、書店で表紙の美しさに惹かれて求めた本。ラジオ、テレビを消して、スマートフォンを手放して、本と向き合うのも心が充たされるひとときです。
1か月間で本を読まなかった人は54%。その一方、本をもっと読みたいと思っている人も72%。読まない理由の最多は「時間がなかった」。読売新聞社は、10月25日から11月23日までの「秋の読書推進月間」にあわせて全国世論調査を実施しました。読書離れが年々深刻になっています。
書店の減少も著しく、全国の市区町村のうち4分の1以上は、書店が一つもない「無書店自治体」。8月末現在でその数は498市町村に上ります。政府は6月、街の書店を地域の重要な文化拠点と位置づけ、減少に歯止めをかける「書店活性化プラン」を公表、支援に乗り出しました。こうした支援策を「評価する」人は70%。多くの人がその必要性を認めています。
読書という親しい習慣が失われてきました。詩人の長田弘(おさだひろし)さん(1939〜2015)は『読書からはじまる』(ちくま文庫)で「子どもの本というのは、子どものための本ではありません。大人になってゆくために必要な本のことだというのが、わたしの考えです」「本を読むことが、読書なのではありません。自分の心のなかに失いたくない言葉の蓄え場所をつくりだすのが、読書です」と綴ります。
美智子さまが1998年(平成10)の皇后の折、インドで開催された国際児童図書評議会世界大会にビデオ出演。基調講演で子ども時代の読書が楽しみを与え、青年期の読書の基礎を作ったとして「ある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました。この根っこと翼は、私が外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、大きな助けとなってくれました」と語られました。
たのしみはそぞろ読みゆく書の中に
我とひとしき人を見し時
読書は人生の贈り物。幕末の歌人、橘曙覧の一首をかみしめます。
