コラム・エッセイ
国技相撲
翠流▼徳山に巡業に訪れた時の、年寄になって会場の警備をしていた先代貴ノ花の姿が強く印象に残っている。“角界のプリンス”と呼ばれた端正な姿のまま、まじめな表情で与えられた仕事をこなしていた。二人の息子を横綱に育てて二〇〇五年に五十五歳で死去したから随分、昔のことになる。
▼今、日馬富士の貴ノ岩に対する暴行事件をめぐって渦中の人となっている貴乃花親方はその二男。この事件で驚いたのは、報道によると協会の聴取に応じなかった貴乃花親方を批判するかのような見方があること。
▼これが相撲界でなければ、ふだんは仲の良い同郷の先輩、後輩の間であったとしても、仕事ができなくなるほどのけがをさせれば警察に通報され、本人はすぐに逮捕されても誰も疑問を感じないはずだ。
▼ところが、相撲界ではまず相撲協会に被害者側が事情を説明しなければならないらしい。そして横綱が貴ノ岩だけでなく、加害者の日馬富士の土俵への復帰を希望していると公言する。何か、ずれていると感じた人も多かったのではなかろうか。横綱審議会で厳しい発言があったのも当然だと思う。
▼横綱の初代若ノ花の弟で将来を期待されながら横綱にはなれなかった先代貴ノ花。その陰には部屋でのしごきや飲酒の強要があったという。
▼愛弟子を暴行されながら協会や加害者を非難することなく無言を貫く貴乃花親方。警察の聴取を優先したためというが、その胸の内を語る日は来るのだろうか。国技の名に恥じない相撲協会になるようお願いしたい。(延安)
