2026年06月13日(土)

コラム・エッセイ

(4)仇桜

補 周南新百景 佐森芳夫(画家)

 桜の花が咲くころになると、決まったように春の嵐がやってくる。そして、みごとに咲き誇った桜の無垢の花びらは、無残にも四方八方に散らされる。そこには、避けたくても避けることができない自然の営みがある。

 たとえ、そうした困難を無事に乗り越えたとしても、満開を迎えた桜の花を待ち受けているのは、いずれは散っていくという運命である。そこには、華やかな桜の花が秘めている「はかなさ」という別の顔がある。

 親鸞聖人は、「明日ありと 思う心の仇桜(あだざくら) 夜半(よわ)に嵐の 吹かぬものかは」と詠んでいる。その意味は、明日があると安心していると、夜半に嵐が吹いて花が散るかもしれないということである。

 その意味には、明日あるかどうか分からない自分の命であるからこそ、今を大切に生きるべきであるという教えが含まれているのであろう。しかし、気になるのは、そこに仇桜という言葉が使われていることである。

 仇桜とは、はかなく散ってしまう桜のことであるが、人の命や世の無常さを表す別の意味でも使われている。無常とは、すべてのものは常に変化し、永遠に変わらないものは何一つないとする仏教の教えの一つである。

 今年は、曇りの日や雨の日が多く、満開の花と快晴の日が完全に一致する日が非常に少なかった。それでも、偶然に通りがかった国道沿いのある場所で、晴れ渡った空に満開の桜が映える風景に出会うことができた。

 ところが、その喜びもつかの間、夜中になって窓をたたく激しい雨の音で目が覚めた。時計を見ると、午前1時を回っていた。おそらく、満開の桜の花びらは、激しい雨に打たれてはかなく散っていったに違いない。

 願ったところでどうにかなるわけではないが、それでも、何とか雨が降り止むことを願わずにはいられなかった。

 すべてを無常として受け止めることができず、ようやく雨が止んだのは明け方近くになってからである。

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